心理・認知・感情・精神

意志力を鍛えるには

投稿日:2018年10月4日 更新日:

なにか諦めそうになった時、誘惑に負けそうな時に対して、人は「意志力」の強弱を語る。ではどのようにして強くできるのか。

意志力とは

・やり遂げること、誘惑に負けないこと、決断力など、広い範囲で使われる。特にやり遂げることを指している場合が多い。

・単一のものとは思わないほうが良いだろう。ケリーマクゴニガル曰く、意志力とは、

  • やる力
  • やらない力
  • 望む力

の3つの要素があるとされる。

意志力について言われていること

限られた資源である/違う 限界がある/ない

・社会心理学者のロイ・バウマイスターの研究では「意志力は限られた資源である」とされた。

例えば朝からどんな服を着ていくか、昼何を食べるかとかの些細な決断や、食べ過ぎや「後でやろう」みたいな日常的なちょっとした誘惑との葛藤で「消耗」し、枯れたらグダグダになると。

・ただ、意志力や決断力、そしてストレスが身体に有害な効果を与えるかどうかなどは「当人がそれをどう思っているか」に大きく関わるとする意見もある。

意志力・決断力には限界がないと思っているグループには性能の低下が見られなかったとか、ストレスが体に悪いと思っている人間だけがその後身体が不調になり、そうは思っていないグループに変化は見られなかったとか、そういった研究もある。

・この点についてはどちらとも言えない。プラシーボの影響がプラスにもマイナスにも響いているとは思うが。疲れると思っているから疲れるのかもしれないし、疲れないと思っているから疲れないのかもしれないってこと。

まぁプラシーボ効果持ち出せば何でもかんでも疑える気がするが。特にメンタル的な要素に於いては、実際に気の持ちようが効果を発揮するため、ややこしい所だ。

ただし、プラシーボ効果がよく見られるのは鎮痛においてであることが多い。要は麻酔のようなもので、消耗や損傷をしていても気づかないだけかもしれない。

意志力が必要なのが何らかの限定的な場面なら、「おまじない」でもしてプラシーボ効果で乗り切れるかもしれない。ただし日常的に意志力の不足を感じて求めているのならば、消耗や損傷が蓄積して危険となる。
はっきりするまでは休息は必要なものだと思っておいたほうが良いだろう。

グルコース

・グルコースで意志力が補給されるという研究があるそうな。要はブドウ糖。

意志力を発揮したらブドウ糖が減り、足りなくなって意志力がなくなる、と言える。まぁそれだけでなんとかなるなら糖尿病患者は世界変えれるわって話にもなろう。

実際には、特に二型糖尿病で自制心(特に食べ物に対して)がある人ってのは、まぁいるのかもしれないが私はその逆しか見たことない。伊達に生活習慣病とは言われてない。ブドウ糖だけ取りまくれば意志力が増すとかそういう話じゃないだろう。欠乏は問題になるだろうが。

意志力を鍛えるには

意志力は筋肉のようなもの

・ロイ・バウマイスターによる理論では、「意志力は筋肉のようなもの」とされる。使って鍛えることが可能だとされている。

メンタル的なものに対して人は「気の持ちよう」「心を入れ替える」などというように、気持ちさえ変わればすぐに効果が出ると思いがちだ。実際には今まで散々やってた「脳のクセ」の方が強い。だいたいは気持ちを切り替えること自体が難しいことのほうが多いだろう。

ロイは気の持ちようでぱっと変わるようなものではなく、意志力は日々のトレーニングなどで「培うもの」であるとした。

意識するべき点としては、

  • 短期間に集中して使うと消耗する
  • 鍛えるためには、現実的に達成可能な量を確実にクリアしながら負荷を高めていく

・脳には可塑性がある。形が変わるという意味。つまり実際に使っていればそれに対して最適化や成長が起きることは別におかしくはない。脳細胞は大人になっても増え続ける。知らなくて諦めてしまっている人もいるが。

ただ、一時的に形が変わっても、数時間で元に戻る。その形を覚えるためには定期的、長期的に繰り返す必要はある。これを指して意志力を「筋肉のようなもの」と言っているのなら納得はできる。

脳の中で何がどうなって「意志力」という現象を発現させるのか知らなくとも(前頭前野だが)、鍛えることが可能と知るだけで十分といえば十分かもしれない。既に使ってはいる訳だから、鍛えるための使い方を意識すればいい。

新しい習慣を始めると意志力が強化される

・オーストラリアの研究者、OatenとChengの二人が行った実験によれば、「新しい習慣を始めると自制心が増す」との結果が出た。

被験者にスポーツの習慣を一ヶ月、二ヶ月と行わせ、ひと月ごとに「悪い行動の数」を調査した。日常生活に於いて約束を守らない、ジャンクフードの摂取量、衝動買い、逆ギレなど。

結果、顕著に減っていた。自制心を発揮し、理性的合理的に日常生活を送れるようになった。「意志力が増加した」と呼んで差し支えないだろう。

・その後さらなる実験では、この効果はスポーツの影響なのか、新しく習慣を身につけることによる影響なのかが調べられた。家計簿をつけさせて余計な買い物を控えるよう指示したグループと、新しい勉強のコツを教えたグループとで。

この結果、どちらも喫煙、飲酒、食事や運動家事等において改善が見られたとのこと。習慣自体の成果である節約や成績アップも見られた。

・なにか新しいことを継続して習慣的に行うよう心がけることは、日常や自分の衝動に対しての注意力も向上させるように見える。規則正しい生活自体に意味はなくとも、規則正しい生活を起こることは意志力を向上させる効果があるとも言えるか。

習慣はささやかなものでいい

・オーストラリアの研究と類似したものがノースウェスタン大学の研究でも存在する。

ノースウェスタン大学の心理学チームは2週間の意志力トレーニングを行うことで恋人への暴力が減るか否かを調査した。

18から45歳までの恋人持ちの40名を集め、2つのグループに分けた。

  1. 利き手の反対側で食事など日常的なことを行うグループ
  2. 汚い言葉使いを禁じたグループ
  3. 何も指示しないグループ

結果、1と2のグループでは、それまでの自分が怒るような出来事があってもあまり怒りを見せなくなった。3のグループは変化なし。

ここからは「効果は二週間で出る」ことが収穫として挙げられるか。ちなみに脳の可塑性が定着するのも大体2,3週間ほどと言われていることが多い。

また利き手の逆を使う、言葉使いを注意するなどは日常的に常に注意するべきようなことだ。「常に自らの言動を監視する」あるいは「常に何かしらを心がけている状態」は自然と行われたはずだ。

逆を言えば、人は「意識が目を離した時に」、その手、その口、その頭で何かしらやらかすことが多い。

欲求を満たすことを先延ばしにする

・本能としては欲求を満たすことが存在理由みたいなところがあるが、自制心・理性・人間性としては欲求の「制御」が問われる。

そもそも「自分は意志力がないな」と思うような時ってのは、自分で決めたことを諦めたとか、やらなかったとか、脱線して違うことやったとかだろう。要は自分の行動が自分の思い通りじゃなかった時。一部は予定や計画自体に問題があった可能性もあるが。

つまりやる気が消えた、実行しない、誘惑に負けた、のどれかのタイミングで「自分には意志力がない」と感じる。

・やる気が消えてしまうことについては「やる力」よりも「望む力」の方が重要だろう。実行力というよりも、大抵は動機自体が死にかけていることが多い。

・実行しないことと誘惑は、それをやるよりも優先して何らかの欲求を満たしたかった、と言いかえることができる。勉強するよりゲームやりたいだとか、洗い物するよりこのままテレビ見ていたいだとか。前者は欲求を優先した、後者は欲求をこのまま満たし続けていたい、と言える。

意思が弱い、というよりは欲求を満たしたい思いのほうがそれより強い、と捉えたほうがわかりやすい。ここで必要な意志力は「やらない力」となる。

・欲求を満たすことの先延ばし、あるいは欲求を満たしている状態の一時停止は、欲求よりも理性を優先することになる。つまり欲求の弱化と意志力の強化が同時に行える。

いきなり張り切ったら筋肉で言う所の足が吊るとか肉離れとかそんなことにもなりかねないだろう。まずは数分間の先延ばしや一時停止で様子を見つつ増やした方が良い。

環境を整える

・「意志力」と言うと根性的な何かが連想されがちだし、意志が弱いと悩む人程、根性ひねり出そうとしてるように見える。

ただ、実際には規則正しい生活サイクルなど、不確定要素があまり起きないなどの「環境を整える」ことにより達成されていることのほうが多い。

単純に言えば「妨害」が起きないための環境づくりをして「心の余裕」を確保している人間が、自制心がある意志力が強い人間とされている傾向。

・睡眠が足りてない、とぼやく人の中には眠る時間を決めてなくてバラバラな人とか実際にいるわけだ。その人と、特に意味もなく22時になったら寝るって決めてる人と、どちらが規則正しい生活が送れるか。

この場合前者には確かに意志力が毎晩必要だろうが、後者の場合は「時間だから寝る」と決め、実際にそれを繰り返すことにより習慣化され、難易度の低下という形で努力を「積み立てることができる」。

最終的には意志力はあまり必要ではなく、身体が覚えることになるし、その分意志力は(限りがあるのだとしたら)別のことに使える。

例えば勉強時間、睡眠時間、家事をする時間などを決め、「時間だからやる」ことを守れば、それは「積み立て」になるだろう。毎回毎回嫌だけどやらなきゃ、意志力出さなきゃ、と自分に言い聞かせながら決心してやるよりは断然効率がいい。

・長続きのコツとしては、まずは始める時間だけ決めてみること。実際には作業興奮とかでそこそこ目処が付くまでは取り掛かることが多いのだが、予め一時間やる、これを終えるまでやり続ける、とか決めてると取り掛かる際に重くなる。

重すぎて精神的負担がやる前から高い場合、「できるけどやらない」という意志が弱い人みたいな感じになってしまう。この「やる前の緊張」は無自覚ながら結構強い。習慣化に於いては、何よりも「出だしを軽くすること」に専念したほうがいい。

というか習慣化なんだから続かなきゃ意味がない。その日頑張ればなんとかできるとかそういうレベルを設定する時点で失敗率上がる。

メモ

何かしらの習慣を身に着けようとした者が、その対象以外にも意志力を発揮するようになるのは、意識の制御・管理という意味での「意志力」が鍛えられた(あるいは活発になった)結果ではないか。根本的な部分の成長。

また、自分が今、何を目的としているか、それに沿った行動を取っているかどうかの自己監視は、制御に於いて絶対に必要になる。この能力はそのままメタ認知能力とも言える。

車で例えるなら、アクセル(やる力)、ブレーキ(やらない力)、ドライバー(メタ認知能力と望む力)となろうか。欲を貪るだとか、やらなきゃいけないことなのにやりたくないとかは、メタ認知ではなく「本能」という別の運転手に乗っ取られているとも言える。まぁ理性が間違っていて、本能が正しかった、なんてこともあるにはあるが。

・意志力を損なう一つとして効率主義があると思う。あと閃きとかも作業中には邪魔になる。要は「これよりももっといい方法が」みたいなものは、今やってることを「中止させる誘惑」となりえる。トレーニングとして割り切って、「やり遂げる」ことに専念したほうが良いのではないか。

禅や瞑想なんかである話だが、ああいうのは見方を変えれば心に湧く邪念・雑念などの誘惑をスルーし続けることが求められる。面白いのが、それらは嫌なことや辛いこと、心配事に限らず、「名案」「閃き」のような形で邪魔をしてくることもある、ということだ。ついでに言うと私が読んだことある本には「最後の手段としてエロい妄想出してきやがる」とか書いてあった記憶がある。

まぁそれはともかく何が雑念となるかは、その発想が今やってることと一致しているかどうかで決まるだろう。今やってることが「意志力を鍛えるため、このタスクを完遂させる」ことであるならば、今やってることを止めることに繋がるものは、雑念となる。

・OatenとChengの研究では、意志力を測るために何か特定の物事を「考えないように」と指示することで負荷をかけつつ動体視力検査をさせるようなことを行った。

これは頭の中の制御にリソースを使わせたと言える。後に習慣化をして数ヶ月たった者たちはこの検査の成績が上がっているため、ワーキングメモリなどの意識リソース部分の増加か、運用方法の最適化が行われたとも取れる。簡単に言えば、頭の性能上がってる。

参考文献

https://www.lifehacker.jp/2013/06/130612habit_formation.html

https://aider.jp/101

https://wired.jp/2012/10/10/mf-willpower/

http://understandlove.hatenablog.com/entry/2017/01/19/193000

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