先延ばし癖がマインドフルネスで改善するという話

・まず初めに言っておきたいのは、先延ばしの原因は複数あるということだ。

先延ばしの因子とされているのは、

  • 興味の低さによる他事優先
  • 先延ばし肯定・容認
  • 課題困難性の認知
    がある。

今回は、課題困難性の認知、つまりやろうとしていることの何らかの「難しさ」で先延ばしすることについて。

・マインドフルネスという言葉は、大体2つの文脈で使われる。

一つは精神状態を指す。心が「今、ここ」に向いている状態(裏を返せば普段はあまり向いていない)。何かに集中したりフロー状態になったりもマインドフルな状態であり、世間一般のイメージよりはもうちょっと身近なものである。

もう一つはその精神状態になるための技法であり、代表格はマインドフルネス瞑想。ただしそれだけではなく、ラフな手法も沢山ある。


フロー状態に日常的になるには?
人が死を前にして後悔することの一つが、「自分を幸せにしてやるべきだった」だそうだ。 フロー状態に日常的になるには? ・フロー状態は1つの活動に没頭している状態。生産性を高め、集中し、充実という一つの幸福の形でもある。 ...

・重要な点として、先延ばしは「怠け癖」とは限らない。真面目だからこそって理由もあったりする。だから「気合でなんとかなる」とも限らないわけだ。

その他に発達障害やPTSD、うつ病などからくる先延ばしもあるため、なんかおかしーなと思ったら医者に行け。

先延ばし癖とマインドフルネスの関係

  • 先延ばし癖レベルが高いと、マインドフルネスのレベルは低いよ
  • マインドフルネスのレベルが高いと、先延ばし癖のレベルは低いよ
  • ストレスが高くても、先延ばし癖のレベルが上がるよ

・香港教育大学による、先延ばし癖とマインドフルネスの関連性を調べる研究。339名の大学生を6ヶ月にわたり調査した。1

結果、

  1. マインドフルネスが上がると、先延ばし癖を減少させる
  2. 先延ばし癖が上がると、マインドフルネスが減少する と分かった。

つまりマインドフルネスと先延ばし癖は潰し合う関係(相克関係)にある。 さらに先延ばしによるマインドフルネスの低下により、もっと先延ばし癖がひどくなるという悪循環があり得る。

この結果は「先延ばし癖は精神状態の影響が大きい」との意味でもある。特定の物事に一定のストレス(プレッシャーや責任感など)を必ず感じるなら、それは高確率で先延ばししたくなる。2

・先延ばし癖とマインドフルネスの関係は日本でも研究が行われている。 札幌国際大学の研究により、先延ばし癖とマインドフルネスの関連が調べられた。こちらは「マインドフルネス瞑想」を行わせ、効果を調べている。

  • こちらでも先延ばし癖とマインドフルネスは相克関係と出た
  • ストレスと先延ばし癖は正の相関(片方が高いならもう片方も高い)にあった
  • ストレスとマインドフルネスには負の相関(片方が高いならもう片方は低い)にあった

以上から「マインドフルネス瞑想は先延ばし傾向の増加を抑制する効果をもつ可能性があることが示唆された」とされている。

実験中、先延ばし癖は上がったり下がったりと「波」があった。性格というよりは気分という印象を受ける。こちらでも心理と先延ばし癖の関連が考えられる。3

・以上を見れば、先延ばし癖とマインドフルネス状態は相克関係にあり、先延ばし癖を抑えたいならマインドフルネスを高めることは有効だと言える。

メンタルが主な理由の先延ばし癖なら、マインドフルネスでの抑制は可能だと考えられる。環境要因(プレッシャーや忙しさなど)が理由の場合も、先延ばしの緩和は期待できるだろう。

・ちなみに感情的な自己制御能力が低いと、先延ばし癖は高いとされている。全体的に今回の先延ばし癖は「感情処理能力」の問題に見える。

先延ばし癖と不安感

  • 先延ばし癖と不安感は関係しているよ
  • 考え過ぎると不安になるよ
  • これからやることがよくわからなくても不安になるよ

・先延ばし癖は衝動的な行動を伴う場合が多いとされる。あまり理性的とは言えない状態。

じゃあ頭がゴリラなのかと言えばむしろ逆が多く、「考え過ぎ」によるストレスやパニックを起こしていることが多い。自分で「頭の中が汚部屋」と表現する人もいる。 これが緊張やプレッシャーといった「やらねばならない時に感じるストレス」だろう。

・別の言い方で「処理が深い」とも言える。これはHSPの特徴とされ、考えすぎ/悩みすぎ/気にし過ぎの傾向を指す。案の定HSPも先延ばし癖ややる気が出ないなどの悩みはあるようだ。

ついでに言うとHSPは過度な興奮とか感情的反応性も特徴として上げられているため、頭の中は騒々しく、忙しいだろう。

HSPについて
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他人の感情が入ってくる/共感しすぎてしまう人:情緒的巻き込まれ
・「感情なんていらない」なんて言う人もいるくらいで、感情は元から人を振り回す。あまつさえ他人の感情で自分が振り回されるんだったら、まぁイヤだろう。・共感力が高すぎる人。例えば他人の感情を「浴びる」、みたいな表現が、わかる人とわから...

・考え過ぎは不安感を増す。先延ばし癖は不安と正の相関がある。このため自分にとって大事なこと程先延ばししてしまうことは十分に考えられる。

というか書類の提出とか論文の提出が期限ギリギリだなんて話は多い。先延ばし癖に関しての動画でちょっと有名なティム・アーバンも、論文がギリギリでひどい出来だったという話をしていたな。

ティム・アーバン:先延ばし魔の頭の中はどうなっているか
TED:先延ばし魔の頭の中はどうなっているかおもろい。ああいうイラストって見やすくていい。彼のサイトを見た限り、多分自分で描いてるねこれ。以下、個人的趣味で再解釈したり色々とするため先に言っておくが、コンテンツとしてはこの話は既...

彼がTEDでの講演を快諾した後で、「自分が何を引き受けたかわかっているのか」と思ったことも、「後から不安になってきた」と言い変えることができる。

・重要事こそ不安になりやすいもう一つの理由として、大きな/複雑なことであるため「次に取るべき行動がはっきりしない」というパターンが有る。具体的なやるべき行動が不明瞭な場合、それだけで先延ばしする傾向が高くなる。

流石に予定も手順も心得ている、と思いがちなのだが、「じゃあ何も見ずにスケジュールやフローチャートを書いてみな」と。
そんな時に初めて頭に入っていないことが分かるような「小さな不明瞭さ」が、全体像をボヤけさせ、漠然とした不安感に繋がる。本当に漠然とした不安感であり、やってみたら問題なくできるということも多い。

この場合は対策として、無理に見通しを立てようとはせずに「次にやること」を常に見出し、動き続けることだとされている。全体像は、別に頭に入っている必要が元からなかったりする。計画性はもちろん必要だが、むしろそれを頭の中だけでやろうとしているのなら不実だろう。書きましょう。

・不安感は未来のネガティブかつ漠然とした想像であり、過去や未来を想像している時に人は「まるで今、その場にいるかのように」感情が湧くことがある。 どうも脳はこの感情を重大ごとと捉え、「感情に対処しよう」とするようだ。結果、憂さ晴らしやら逃避やらをすることも多い。

「明日が怖い」という状態についての考察
不安と恐怖に違いはあるけど、もう分けなくていいんじゃねぇかな嫌なことを思い浮かべた時点で、追体験/仮想体験している可能性先走った感情の処理・これは考察であり、それ以上ではないです。・対象が「明日」である限り「この場で解決す...

なぜマインドフルネスで先延ばしが解決するか

・まぁ単純に、マインドフルネス状態は集中力が増して不安は減る効果があるので、めんどくさければそんな認識でいい。

もしも今、「不安が減る」=「先延ばしはあんまりしなくなる」と認知しているのなら、まぁ私もこのページ作った意味はあるというもので。


・マインドフルネス状態を平たく言えば「今、この瞬間に注意を払っている状態」だと思えば良い。

簡単そうだと思えるだろうが、「持続できるか」という意味ではかなり難しい。

普段の私達が未来や過去を気にして「今」にはそれほど気を払っていないとされる。この状態をマインドレスネス(心ここにあらず)やマインドワンダリング(精神の放浪)と呼ぶ。これが普段の状態

・先延ばし癖がマインドフルネス状態で抑制され、マインドレスネス状態で出やすいということは、先延ばしが無意識的/自動的な判断だと考えられる。

そしてマインドフルネス状態は『今』に気づく能力が最も高い状態であり、このような無意識的なものにまず気づける

ただそれだけだが、その効果は大きい。

・例えば新型コロナの感染予防として「自分の顔を触るな」という意見が出た。鼻や口はもちろん目からも入ったりするからね。

だが人間が1時間で顔を触る平均回数が、米国国立衛生研究所の調査では3.3回、ニューサウスウエールズ大学による調査では23回だという。

もちろん私たちはそんなに顔を触っている自覚はない。なんだったら一度も触ってないと思っているかもしれない。でも実際の数としてはこんな状態。

これに対して効果的な抑制法が、「顔を触った数を数えろ」だった。我慢しろでも手を縛っておけでもない、回数を数えろである。これだけで減る。

なぜなら数えるためには「今」に注意を払わなければならないからだ。これを試みることに依って無意識に顔を触っていることにまず「気づく」。 気づいたらやめるだろう。よろしくないことだから。

こうしている内に、やろうとした時点で気づけるようになる。そうすれば顔を触らないという「選択」ができる。

・マインドフルネスによる先延ばし癖の低減も同じ理屈であり、このような「今に意識を向ける能力」が育つ。これにより「先延ばししようとした自分」に気づけるようになる。そうすれば選択ができる。普段、先延ばしを考えた自覚はあるだろうが、先延ばしを選択した自覚はなかっただろう。

まぁパニクってたり疲れてると感情的になる可能性もあるが、自動的になる可能性もある。

・また、課題困難性にも気づけるようになる。つまり「自分はこの作業を難しいと思っている」と分かる。

恐ろしいことに普段分かってない方がほとんどである。それでもやって、なんとかなっているわけだが、まぁ当然ストレス多いし苦手意識も育つ。「できるけど嫌いな仕事」が増えるばかりだったり。

どこが難しいと思っているのか、どこが漠然としているかなどに気づけるのなら、当然対策も立てやすい。前述の「次の一手を見出し続ける」など。これは心理的なハードルをできる限り下げたものであり、「行動によって脳を騙す」とも言われる。

騙すっていうか勝手にテンパってる脳が悪いんだが。まぁこんな奴(脳)騙してもいいだろう。

・別の説。

ストレスは自分を客観視する能力(メタ認知)を失わせる。マインドフルネスはストレスを緩和させる。

マインドフルネスによりストレスが緩和する→メタ認知能力が戻り自分がやらかしそうなことに気づける、という流れ。

似たようなもんだが、こちらの場合は「今、ここ」に注意を払うことは意識されない。こっちの方が気楽でいいかもね。

・更に別の説。

マインドフルネスが感情との一体化を抑える。このため感情による自動的な判断や行動(今回では先延ばし)をしなくなる。

・まぁ言い方が違うだけで、全部同じもの指してると思うけどね。

まとめ

・要するにこのケースに限れば、「自己コントロール能力が低下している状態だと先延ばし癖がでるよって話」である。自己コントロール能力そのものをなんとかしなくてはならない話。。

対処法は状態の回復や状況の整理の方が有効であり、根性論じゃない。

・マインドフルネスを勧めたいというよりは(どうでもいい)、不安から先延ばしをすることがある点と、先延ばしが意思決定ではない場合がある点を強調したい。まぁ無自覚無罪ともするつもりはないんだが。

だからこそ、考えすぎない工夫や、自分の「今」に気づくことは有効であるよと。


・先延ばし関係のまとめ

先延ばしについて 目次
先延ばしの理解多くの大学生が先延ばし傾向がある75%がギリギリまでやらないタイプ効率性重視の方略の一種だとされるこの上で期限に間に合わない場合は、自己調整能力が必要とされるここでは期限に間に合えばとりあえずセーフ扱...
  1. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0191886918306500?via%3Dihub
  2. 適応障害や出社拒否症も似たような形になる
  3. https://www.jstage.jst.go.jp/article/hps/41/0/41_64/_pdf/-char/ja
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