苦手意識への対策

・やる気が無いと言うよりは、タスクに苦手意識がある、タスクが嫌いな場合。

 

セルフ・ハンディキャッピング的な何か

勉強してると部屋を片付けたくなるアレ。一般にはセルフ・ハンディキャッピングと呼ばれる「できそうもないから予めできなかった理由を作っておこう」というしょーもない心理だとされている。

 

・しかしその説明ではしっくりこないことも多い。人間のモチベーションに関わる即時フィードバック(改善点などだけではなく、行動に対しての結果や反応、手応えなどを含める)に焦点を当ててみると、こんな感じになる。

総量結果が出るまでの時間手応えゴールまでの可視性難易度
勉強多い(または不透明)長い(数日、数ヶ月、あるいは数年)不透明(明確にわかるのは受験やテストの結果を見た時)遠い/不透明高い(結果が伴わなければ意味がない)
片付け少ない(または考えてない)短い(数分から数十分)すぐに得られる目の前低い(ヘボくてもやった気にはなれる)

 

とまぁ、勉強は即時フィードバックを得るのは難しく、掃除は即時フィードバックを得るのが容易い。

個人的に部屋を片付けたくなるのは「手応え」に飢えてるから、だと考える。

別の言い方をすれば処理流暢性(それをやるときのスムーズさ)が勉強は低く、片付けは高い。人は流暢性が高い方に流れる傾向はある。

 

・苦手意識があるタスクの条件を洗うとイメージが、

  • 時間がかかる
  • 進捗が目に見えない
  • ゴールまでが不透明/難易度が高い(できるかどうかがわからない 失敗の余地がある)

=即時フィードバックが得られない/進捗が感じられないものばかりになる。相対的に選ぶものやりたいものは時間がかからない、進捗が目に見える、難易度が低い=即時フィードバックが得られるものに偏っている。片付けやらSNS(新しい情報や刺激=成果)やら。

 

余談 自分だけのことだと先延ばししやすい

・勉強と掃除という関係だけに限らず、やるべきことに対しての後回し/先延ばしは多い。面白いことに「当人だけに重要なこと」に対して特にこれは働く。

ティム・アーバンが言うには、これは締切の有無が関係していると。締切が存在する限りは先延ばしには限界が来る。嫌でも重い腰を上げて、取り掛かる必要がある。そうじゃなきゃ間に合わない。

 

・タスクを重要度と緊急度で分類する考え方がある。ここに当てはめると、当人の個人的に重要な、日頃の積み重ねや努力などは、「重要だが緊急じゃない」タスクとして分類される。

これが元から、「人生で最も大事だが大体放置される」と言われている。緊急度が高い方に追われてしまうから。即時フィードバックが得られないのも大きな「やらない理由」だと思うが。

 

・今回の掃除と勉強で言えば、どちらも自分のためである。締切があるのはむしろ勉強のほうだろう。テストとか受験とか。これは努力であり、やがて来る「本番」に備えているということである。

どう考えても掃除の優先度は低い。短絡的に考えるなら勉強の必要がなくなるまで汚部屋でもいい。

「手応えへの飢え」だけで片付け・掃除をやりたくてしょうがなくなるなら、モチベーションのためには緊急度よりも重要度よりも即時フィードバックは必要だということになる。

 

結果の確認までに時間がかかることへの対策

・ここで言う「時間」は体感時間を指す。フィードバックまでに時間がかかりそう=手強そう/つまらなそうとなり、気楽に手を付けることはできなくなる。

 

・面白いことに、即時フィードバックの有無で体感時間が変わる。この論文だと、目標有り+即時フィードバック有りで体感時間が実時間の半分になっている。好きなことをやって、時計を見た時に思う「もうこんな時間か」って感じのアレ。

さらに言えばタスクが好きか嫌いかもあまり関係なく、体感時間の変化は起きる。

 

フロー状態という集中状態になりやすい性格特徴の一つに、自己目的的であることが挙げられる。手段が目的になってること。良くない意味で言われることもあるが、この場合は、「結果ではなく行為自体が目的」としやすい性格。

見方を変えれば、手段/工程自体が目的化しているため「手応え」は常に感じている状態だ。即時フィードバックを常に得ている。

性格的にそうでもない場合にこれを見習うとしたら、

  • 「これからやる一歩」をひとまずの目標とする
  • 「次」を考えずその一歩に集中する
  • それを達成することにこだわる(やり遂げたことをしっかりと認識する)

こんなところだろうか。

 

 

進捗が目に見えないことの対策

・努力というのは基本、前に進むためのものであり、あまり後ろを振り返らない。人によっては十分成長しているのに、それが自分でわからないこともある。

ただし、その証拠は存在するはずだ。

 

・人間は計画の進捗は気にするが、自分の成長はそれと比べると気にしてない。それが「普通」になってしまい、あまり意識しないし実感もない。

進捗がわからず無間地獄にいるような気分になるのは、進捗や成長が可視化できてないから分かりづらいという面がある。じゃあ見えればいい。

  • スタート地点の状態を記録する(現物や時間など数値化できる記録など)
  • 終了後または進んだ気がしない時に、スタート地点と現状を見比べる。

このためには、「できなかったことの記録」は必要になる。ポジティブ信仰だとこういったものは毛嫌いされやすいが、その道に対して努力をしているのなら避ける必要はあまりないだろう。振り返ってみたら雑魚になってることも多い。

 

・失敗は失敗で価値はある。この道は間違いだ、という知識は得られる。

結構重要なことで、人は「機会損失の恐れ」を持ちやすい。もっといい教書があるかもしれない、もっと効率的な方法があるかもしれない、もっと便利なツールがあるかもしれないと、結構気にしやすい。

「アレは絶対に自分には向いてない。なぜなら失敗したからだ」と思えるのは、一つの有益な情報だろう。実際にそうなのかは知らんが、見切りをつけるというのはその分、別のことに注力できるということでもある。根性の出番は最後の最後。

 

・ただし失敗だと気づくのが遅すぎると、時間的な問題がある。こうなりやすいのが、「結果が出るまでこれをただひたすらやってさえいればいい」という勤勉型の努力だ。結果が出ない間違った努力でこうなったらいつ止まれるのか。

これの防止のためにも、定期的な「成長の確認」は必要だろう。そして、簡単な確認法は昔の自分と比べてみること。

 

 

難易度が高い/計画の不透明性への対策

・本質的な難易度は恐らく落とせないだろう。大抵はやるべきこと、やらなきゃいけないことであり、自分が妥協すればいいという話ではない。

 

・『ヤックシェービング』という概念がある。問題Aを解決しようとしたら問題Bが出てきた。BのためにはCが、CのためにはDがと延々と続いて終わらない現象を指す。

プログラミング界隈の言葉で、「ヤクの毛刈り」という意味。ヤクは牛の仲間で、毛は衣類の材料になるが剛毛で刈るのも加工もめんどくさい。

解説も例もこのサイト(http://0xcc.net/blog/archives/000196.html)が詳しい。例の長さに気合が入っているね。

 

・ゴールまでの不透明さへの懸念は、この様なヤックシェービング的な嫌な連鎖への警戒を含んでいる。ゴールまでが不透明=思った以上に大変な可能性/失敗に終わる可能性。からの、苦手意識や過度の緊張。

ただこれ、事実だけ並べれば、

  • 何が必要か見えてきた
  • 次にやることがわかった
  • それは元のタスクよりはゴールまでの透明性がある

と、良いことしかないように見える。主観的にはゴールが遠のいているようにしか見えないが、理解度が上がる、ゴールまでの透明性が増す、難易度もわかってくる、と事実だけ見れば明らかに進んでいる。

手を付ける前の自分よりも、今の自分のほうが物を知っている。計画を立案するのに向いている状態になる。逆を言えば今やっている計画は、今の自分より物を知らないちょっと前の自分が立てた計画だ。一度疑ってみる余地は出てくる。

 

・舞台などではシーンごとの練習をある程度したら「通し稽古」をする。一連の流れを実行してみて、問題点を洗い出す。

あまり好きな言葉じゃないが、「やってみて初めて分かること」は確実にある。こういうの、後から振り返ると「初めからわかる余地はあった」ように見えるんだが、それは後知恵バイアスってやつだろう。まぁ大体無理だ。

だからといって何も考えず万事当たって砕けろってのは、一人で勝手に砕け散れと思うが。

 

・ヤックシェービングを念頭に置くなら、緻密なスケジュールを作成するのは裏目にでるかもしれない。むしろ概要だけ決め、後はバッファ(余裕)を用意して臨機応変に、の方がこの場合適応できる。

なんというか、「頑張るつもり」があるほどに緻密なプランを立てやすいが、そういう時に限ってうまくいかないのはこのせいだろう。

「やることをはっきりさせるために、まずは手を付けてみる」というのは、時間が許す限りは有効になる。出だしで躓いても、そのままうまく行ったとしても、どちらにせよ「収穫」になる。

 

・ちなみに先延ばし状態からようやくタスクに手を付けて、ヤックシェービングになったら時間的に詰む。

 

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