機能不全家族の概要
・厳密には家庭内に対立や虐待、ネグレクトなどが恒常的に存在する家庭を指す。恒常的ってのは「いつも」「ずっと」ってこと。
英語だと Dysfunctional family で、Dysfunctional は「機能不全」。
その状態自体は家庭崩壊、家族崩壊と言われる。
・広義として、「子供が安心して過ごすことができない家庭」との意味で使われることも多い。この意味でなら、家庭不和も機能不全家族の内に入る。
このため家庭環境が大きな原因とされるアダルトチルドレンの話でよく聞く言葉でもある。
むしろアダルトチルドレンの定義が「機能不全家族で育って成人した大人」の意味を帯びて広く認知されているとの指摘もある※(本来はアルコール依存症の親のもとで育って成人した大人を指した)。
※https://cir.nii.ac.jp/crid/1574231877264357632
アダルトチルドレンが大体、親子関係が逆転しており、ケアテイカーなどは子供が親を(主に情緒面で)世話をしている。
・どの道、この環境下で悪い影響を最も受けるのは、自らに生活力を持たない子供であることが非常に多い。
また機能不全家族のメンバーは、自身が機能不全家族で育ったことも多い(負の連鎖と呼ばれる)。
機能不全家族の兆候や特徴
・「症状」だと思うが。
・スティーブン・ファーマーによる機能不全家族の兆候
- 拒絶
- 矛盾
- 家族への無共感
- 家族間の境界線の欠如(プライバシーがない、纏綿状態(後述)など)
- 親子逆転(子供が親の感情的な面倒を見るなど)
- 社会からの孤立
- 曖昧なメッセージ
- 極端な論争・対立
これらは機能している家族に必要である「安息の場所」として全く機能しない。
曖昧なメッセージは後述するダブルバインドやダブルテイクの項で。
・Dan Neuharth による健全でない親の8つの兆候(機能不全の要因)
- 条件付きの愛情
- 非尊重
- 発言の抑圧
- 感情の強制
- 嘲笑
- 過大なしつけ
- 内面の否定
- 社会に対する機能不全、または社会からの孤立
これもまた自由と安全が過度に脅かされている。
さらに機能不全を引き起こす親のパターン8つが、
- 窒息(子のアイデンティティーの侵害)
- 利用
- 虐待
- 混乱
- 完全主義
- カルト信仰
- 剥奪(子の欲する物を奪う)
- 精神的な幼稚(虐待を排除しない)
これらは現代では毒親とも呼ばれる。
毒親という言葉、ソフトな使われ方からガチクズな親まで色々で混乱の極みになってるけどな。
ちなみにアダルトチルドレンを日本に広めた齊藤學氏による毒親のタイプが、
- 過干渉/統制型
- 無視型
- ケダモノのような親(各種虐待)
- 病気の親(精神障害)
割りと上記の機能不全を引き起こす親のパターンと関連が見られる。
「病気の親」について補足するが、安直に「病気だからしょうがない」とは言わせねーよってレベルもある。例の一つを紹介しておこう。
反社会性人格のような親で、相手を逃さないために子供を産み、結局捨てられた。
給付金目当てで子供を手放さなかったが、新しい男が出来たから捨てた。男に捨てられると施設からまた「引っ張り出す」。
これは子供を人格を持つ一人として見ていないから窒息であるし、利用でもあるし混乱でもある。自分の都合で居場所を安定化させないから虐待でもあるし剥奪でもある。精神的に幼稚でもあるだろう。
機能不全家族の割合
・恐らくは広義としてなのだろうが、機能不全家族の割合が80%を超えるとされている。ただし出典不明。
一番それっぽいのが、アメリカ人医師が書いた書籍。
私の個人的な見解なので確定的なことは言えませんがアメリカのチャールズ・L・ウィットフィールド医師の書いた『Healing the Child Within(内なる子供を癒す)』という本の影響ではないかと思います。
その本の中で「十分な愛情をもって養育された子供の割合は5~20%で残りの80~95%は健全な人間関係を築くのに必要な養育を受けているとは言えないのではないか?(意訳:ibrain)」というようなことが述べられています。
https://antenote.com/dysfunctional-family-80/
この場合、国が違うので参考にならなくなる。
私もいくつか論文を見てみたが、機能不全家族の割合に関する記述は見つけられなかった。
・ただし、アダルトチルドレンの概念を日本に伝えた斎藤学氏は『AC(アダルトチルドレン)じゃない人なんていないからね。大体の人の親は、変でしょう。』と言っている。
まぁ、厳し目な基準で言えば大体の家族はアウトというのは実態ではないか。その基準とはなんぞやという話になるが、後述。
・ちなみに日本では現在、夫婦の内の3組に1組は離婚する(特殊離婚率が32~35%くらい)のは事実だそうだ。これが減ったほうで、江戸時代では4割近い。
明治時代に離婚率はかなり下がるが、その理由は碌でもない。それまでは妻の稼いだ財産は妻のものであり、経済的自立ができていた。
制度が変わって家父長制になった結果、その財産権が剥奪されたのが大きな理由とされている。
・実際、明治民法以降離婚率が1割台に激減している。逆にそれまでの離婚率の高さは、女の独立性の証明でもあったかもしれない。
要するに離婚率が減ったのは、「離婚したら生きていけない女」が増えただけという話。家庭円満な仲良し夫婦が増えたわけじゃない。
じゃあその上っ面だけ維持されてる家庭は。まぁ機能不全だと思われる。ちょっとややこしいんだが、子供にだけちゃんとした親として振る舞うだけでは不十分となるので。割と家庭の「空気」が重要。
・現代の、夫が定年した時点で熟年離婚、というパターンは、本質的にはこれじゃないかと思わなくもない。後、働きだしたら自力で生きていけることに気づいて、分かれる決心がついたと言う話も多いね。
家族の機能とは何か
・根本的な話、家族形態の多様化により画一化された基準を設けるのは難しくなってきている。「客観的に家族を定義できない」とすら言われている。
例えば女同士で結婚できる国はいくつかあるが、ではそのペアが養子を迎えて家族を作った場合に「父親」の役割はどうなるのかみたいな問題がある。あるいは片親だったらどうなんの、とか。
・調べていると、昔から「今の時代は環境が変化しているため家族の定義も変化している」旨は語られている。ぶっちゃけ一度も定義が固まったことないんじゃないのかと疑わしい。
ただ、その中でも精神的な安定を提供する場所であるべきだ、という点は多くに見られる。
家族機能の8つの基本的な側面
・Barnhill,L.(1979)では、健康な家族機能と病理的な家族機能の基本的側面として8つが挙げられている。
- 個性化 VS 巻き込み
- 相互関係 VS 孤立
- 柔軟性 VS 硬直
- 安定 VS 混乱
- 明確な知覚 VS 不明瞭あるいは歪んだ知覚
- 明確なコミュニケーション VS 不明確なあるいは歪んだコミュニケーション
- 役割の相互性 VS 不明確な役割あるいは役割葛藤
- 明確な世代間境界 VS 拡散あるいは破られた世代間境界
なんでVSなのかはわからん。
参照:家族機能とアダルト・チルドレン的傾向に関する実証的研究
・ここにある「役割」は、皿洗いや風呂掃除ではなくて、親が親の役割を果たし、子供が子供の役割でいられるというような話。
アダルトチルドレンの元となるような機能不全家族では「親が親の役割を放棄し、子供が親の役割をすることがある」と言われる。
ダブルバインドとダブルテイク
・5と6はダブルバインドやダブルテイクが該当するだろう。
・ダブルバインドは二重拘束。矛盾した指示/ルール。
わかり易い例だと、「もういい帰れ!」→「本当に帰るなよ!」という滑稽なアレ。
・ダブルバインドはモラハラや自己愛性人格障害なんかでよく出てくる言葉。
他者に求めることが自己愛的な甘えであるため、恥ずかしくて言えない。だから相手が自らそう動くように仕掛ける。このためにルールや常識を捏造することもあるし、家族内ならそれは容易だろうな。
気遣いを過度に求め、親が子供に愛情試し行動を仕掛けているようにも見える。まぁそう言う事すると誰からも嫌われるからやめたほうが良いね。
・ダブルテイクは発言が二重の解釈の余地を持つこと。三重の解釈の余地を許すならトリプルテイクと呼ばれる。
例えば「できるよね?」は表面上質問だが、発言者の本音は「やれ」だったりする。あるいは相手にそう取られる。
あるいは「この部屋ちょっと暑くない?」というのは質問の形を取っているが、実際には多くが冷房やってくれ暖房弱めてくれみたいな要求と取られることは多いだろう。
つまるところ、誤解の余地もあれば、混乱の余地もある。
・割りと日常的なやり取りに含まれている印象があるが、 海外から見ると、日本人は言い回しが恐ろしく回りくどいらしい。
小耳に挟んで面白かった例としては、夜中に騒いでいるやつに注意するとしたら日本人は「今何時だと思ってるんだ(相手に状況を認識させる)」であり「静かにしろ(要求)」ではないという話。
日本的な言い回しは改善の余地があるとも取れるが、同時に直接的な言い方が余り受け入れられない風土であることも示す。あんまり京都の皮肉的な言い回しをネタにできなくなってくるな。
と思ってる最中にこんなもん見つけた。
これほんと好き pic.twitter.com/FPyNQ2wnjG
— 🇬🇧第77代英国首相ボリス・ジョンソンだよォ!(偽物)🇬🇧 (@BorisBikeFake) April 30, 2022
結論、どいつもこいつもめんどくさい。
真面目な話、このような日常化した回りくどさが一端なのだとしたら、世界的に機能不全家族はそりゃ多いだろうとは考えられもするが。
・ダブルテイクはぶっちゃけて催眠に使われる手法で(一般にイメージされるような面白催眠と違って地味だが)、つまるところ行動変容(人の行動が変わること)をもたらす。
結局のところやられた側がある程度「混乱する(トランス状態にする)」ため、抵抗力や判断力を失わせる。まぁいい方向に使えば、トラウマやら苦手意識みたいなのを乗り越えることにも使えるのだけど、素人には無理な話。危険もあるし。
・要するに要求を明確に言わずに回りくどかったり(オブラートに包むのとは違う)、伝わらなかったりする。意図的に行う場合の目的は大抵、特定のリアクションを引き出すためのコントロールの手段であり、「操作的」と言われたりする。
フリードマンの5つの家族機能
・有名所(?)だと経済学者のミルトン・フリードマンの挙げた5つの機能がある。
- 情緒機能
- 社会科と社会布置機能
- 生殖機能
- 経済機能
- ヘルスケア機能
まぁ、ちと古いかも知れんね。実際、現代家族に当てはめるには無理があると言われている。
経済学の視点だからか、いくらかディストピア臭い。
提唱者の理想が大分添加された「意見」程度に思っておいた方がいい。この辺りの時代の社会学、経済学で説かれる「正しい姿」はそのような匂いが結構キツイ。
ミーム的な、つまり国家的、文化的、宗教的、道徳的な、そして時代背景による部分が大分多いため、判断は任せる。
情緒機能
・情緒安定機能とも呼ばれる。プライベートな場を作り、安らぎの場、憩いの場として機能する。
これが機能していない状態とは、暗い雰囲気とか、家族同士のプライバシーが尊重されないとか、相談することができない空気とか。
簡単に言えば「帰る場所」としての機能。帰りたくない場所になってるようならお察し。「家庭で安らげる居場所がない」と言えばわかりやすいか。
愛着理論で言うところの心の安全基地の概念に近い。しっかりしているなら冒険や挑戦ができる。
これが不安定だと、人間関係の距離感がおかしくなりやすい。近づきすぎるか、人見知りしすぎ。
社会科と社会布置機能
・家族は子供を育てて、社会に適応できる人間に教育する機能を持つ。
あるいは生産的な社会人を輩出するために、子供への初期の社会化を担う。
生殖機能
・性的機能とも。結婚制度は、婚外の性を禁止し、性的な秩序が維持する。
また子供を生むことによって、社会の新しい成員を補充する。
・まぁ不倫とかはアレだということ程度に思っときゃいいよ。
後半は現代的じゃないとも言われている。
経済機能
・共同生活の単位としての家族は、生産と消費の単位として機能する。
または十分な経済的資源を提供し有効に配分する。
ヘルスケア機能
・衣食住、ヘルスケアなどの人間が生きていく上で最低限必要なものを提供する。
・福祉機能とも。病人や老人を不要・援助する働きをする。
・文化人類学者のマードックも性、経済、生殖、教育を挙げている(四機能説)。
バージェスとロックは生殖、養育、情愛と文化の機能を挙げていて、結構共通点が多い。
・社会学者のタルコット・パーソンズは、「社会化と安定化(二機能説)」。
社会化:家族も社会と同じように地位と役割という機能を持ち、家族間の相互作用を通じて社会化する機能を持つ。とされる。つまり社会適応じゃなくて家族自体が「社会」として成り立っているという話。当然「個人」としての居場所は別になくてはならない(家族間でのプライバシー)。
安定化:家族の中で精神の安定ができること。パーソンズの時代の時点で既に産業化により家族機能が変化しているとされる。そのような環境下では安定化の重要性が高い。
これは「成人の情緒的安定と子供の社会化」と書かれている論文も会った。
だが消費する、生産する、パートナーの性的な欲求を満たす、子供を産み育てる、老人や病人の世話をするなどもパーソンズは唱えているため、やっぱりこのあたりの範囲はカバーされている。
・アダルトチルドレンに照らして見れば、パーソンズの意見が一番しっくりくるだろう。親に落ち着きがあること。子供に十分な社会化と養育(つまり親からの関心と適切な干渉)が与えられること。
機能不全家族は家族的地位は維持されるが役割が崩壊していることが多いか。親が偉そうな甘ったれみたいになる。プラケーターを作る親のように、都合のいい親友のような役割を子供に求める場合もあるが。
・一つ言えることは、親が個人として好きに家族内で振る舞ったら、子供が情緒不安定になるだろうということ。そのような時間と家族の一員である時間は、分けたほうが良いのかもしれない。社会性と個人性はもとから相性悪いからな。
機能している家族の定義
・Lidz(1949)では、
- 夫婦の連合
- 世代境界の確立
- 男性・女性としての役割の明確化
・野末(1991)では、
- 問題解決及び健康な家族パターンの伝承
- 強い夫婦連合
- オープンなコミュニケーション
- 父親の家族への積極的関与と、母親の社会のシステムとの関わり
- 価値観の共有
- 家族メンバーの個別性と家族としての全体性のバランス
これが一番しっくりくるかもね。
4は、仕事に逃げるな、家に引きこもるな、って感じに解釈すればいいだろう。性別は関係なく。
家族システム
・家族心理学では、家族を一つのシステムとみなす。重要なのが、この中にはさらにサブシステムがあることだ。これは夫婦、兄弟姉妹、親子などを指す。サブシステムはサブシステムで機能していなければ健全とはいえなくなる。
家族のシステム不全は、纏綿と遊離の2つが挙げられる。
纏綿状態
・てんめん。まといついて離れにくい様。
・家族メンバーが1つの塊のように融合した状態。密着しすぎてサブシステムが曖昧になる。
この状態は、各々の自立性が損なわれる。言葉通りに融合しており、結果として「個」が失われ、同じ考え方や同じ感じ方をするようになる。
これは自他の区別がついていない状態とされる。
・この上でも必ずしも言葉通りに結びついているわけではなく、不満や食い違いが潜んでいることも多いとされる。これにより遊離状態(纏綿の反対に疎遠になる)を内包し、解体されることがある。
家族の問題が問題視されない家族。
・特に問題とされるのは2つ。
①特定のメンバー間で密着性が高まり、それ以外との離反をもたらすこと。
②特定のメンバーに依存することにより、自立を損なわせること。
遊離状態
・ゆうり。他と離れて存在すること。
・疎遠な状態。家族としてのまとまりが見られない。
家族メンバー間、またはサブシステム間にコミュニケーションが働いていない。わかりやすいのは家庭内別居か。
・メンバー間での交流が一切ないこともあれば、特定のメンバーだけ「除け者」にしてそれ以外は密着している状態もある。
後者で代表的な例は、夫との仲が悪い分、代わりに子供に過干渉な母親などの構図(母子密着)がある。
スケープゴートやロストワンも当てはまるだろう。生贄とされたか、自分からかはそれぞれか。
・兄弟姉妹で親の関心や愛情を奪い合うことをカイン・コンプレックスと呼ぶが、これも兄弟姉妹というサブシステムが機能していない。
これは親に問題があることもあるが、兄弟姉妹の片方の性格に問題があることもある。知ってる限りは下が上をライバル視するパターンが多い。
・遊離状態は子供が不安を感じるため、これが不登校の原因となることもされる。
家族間で交流がないため、「家族の問題」という複数人が関わる問題を解決するのが難しいともされる。
メモ
・なんか、8割が機能不全家族で合ってる気がしてきたが。
・纏綿状態がいい例だが、仲良く見えて中身は酷い、ってパターンがいくらかある。
・家族療法の話だが、症状や問題を抱えている者は IP(Identified Patient)と呼ばれる。そして IP の問題は、「家族」というシステムの問題がそこに現れたのだという観点。だから治療対象は「家族」になるわけだ。
逆を言えばIPに問題を押し付け、自分には問題ないとする家族もいる。これはスケープゴートが該当するか。
犠牲、生贄、「わかりやすい原因」。迷惑をかけ、心配をさせ、苦労をさせ、手間を掛けさせ、「この子さえ居なければ」という仮初の原因で居続ける。
https://embryo-nemo.com/139/
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クリッツバーグによるアダルトチルドレンの6タイプ。
アダルトチルドレンが現代では「機能不全家族で育った子供」の意味で使われる。この中でどのような役割を背負わされてきたかにより、タイプが分かれる。
ただし、複数を抱えていることもあるが。