簡単にやる気を出す方法は、「もっとやりたくないタスク」と比べること

 2つのタスクを比較することで、やる気が上下するという論文がある。例えば「やりたくないタスク」と「もっとやりたくないタスク」を比べると、やりたくないタスクがマシに見えるためやる気が出る。比べる前よりも

具体的には、部屋の掃除へのモチベーションが、ジョギングと比べた時に何も比べない時の5倍になる。後述。

タスク同士を比べることで、やる気が上下する

負荷の高いタスクの並列提示がタスク遂行の意思に及ぼす影響から。

・18〜23歳の合計19名(男性13名,女性6名)に、タスクを提示。その際の「やる気」を答えてもらった。

提示されるタスクの要素は3つで、

  • 状況の設定:体力/精神的に、疲れている/余裕がある
  • 指示されるタスク
  • 比較されるタスク(指示されるタスクよりも負荷が小さい/大きいとの説明を含める)

論文内のサンプルでは「精神的に疲れている状況」で「スクワットを10分やってください」、「これは英熟語の暗記10分よりも負荷が小さいタスクです」と表示されている。

指示用も比較用もタスクは全て10分でこなせるもの。家事、学習、運動などがある。比較用の方が負荷が大きいものが選ばれている。後述。

・これを実際にはタスクに着手せず、「この状況でこう言われて、どれだけやる気が出るか」を7段階で答えてもらった。ただしそれだと適当だったりカッコつけな回答をされるかもしれないとのことで、「やる気があると答えた中で、一つは実際にやってもらう」と言ってある。

  • 直前の答えに次の答えが引っ張られないよう、答えるたびに8秒の休憩(無関係な動画の視聴)を挟む
  • タスクへのやる気を答える際には制限時間はない
  • 実験協力者には、どちらが比較タスクかは区別がつかないようにしてある

これを130問。しんどいね。

・これよりも先に、比較対象がない状態での、そのタスクにどれだけやる気が出るかどうかがチェックされている。つまりタスクそのものへの評価。

これと比較した場合との変化の表が以下。

負荷の高いタスクの並列提示がタスク遂行の意思に及ぼす影響

一番左が「比較なし」で、それ以外は比較した場合のやる気。数字が多いほどやる気があり、少ないほどやりたくない。50%未満は青、50%以上はオレンジとなっている。

例えば食器洗いはやる気が出ない(22.81%)が、ジョギングやプランクと比較することでやる気が出ている(94.74%)ことになる。

元からやる気があったことが、比較することでやる気が無くなっている例がいくらかある。

例えばスクワットは比較しなければ63.16%のやる気があるが、NHKの英語の記事*を読むことと比較した場合は5.26%にガタ落ちしている

*URLが論文内にあったので確認したが(https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/)、短いニュース記事だからかなり楽だろう。

・総じて、「『こっちの方が楽』という形のやる気」が存在するということ。

「今の疲労度」と「予測する疲労」も判断基準

・頭や体に負担が大きいと想像できるタスクは、比較用の嫌なタスクとして優秀という結果が出ている。逆を言えば大きな判断基準に「疲れそうかそうじゃないか」がある。
負荷に差があるほど、負荷が小さいものへやる気が出ると考えられる。勉強してる時に部屋を片付けたくなるとか。

・比較の結果は固定的ではないようだ。例えば「体力的に疲れている」との想定では、比較タスクが体力を消費するものだと、遂行タスクにより強くやる気が出ることが確認されている。精神面よりも体力面でこのような傾向が強く出ていたとのこと。

これは疲れている時に雑魚タスクにやる気が出ちゃってると言える。この実験ではタスクをやるやらないの文脈のみで語られるが、日常の自身の運用としてはこのような時は休んだ方がパフォーマンスは回復する。だが比較することで、休むつもりにならなくなるリスクはあるかもしれない(疲労状態での判断能力の低下を連想させる。近視眼的)。

タスクの主観的負荷

・タスクの負荷は主観的なものであり、実際にどれだけ疲れるかとは別だ。事実はともかく「疲れそうだ」と思ったらその分めんどくさい。「主観的負荷の推論(想像)」がやる気にかなり影響を与えている。「案ずるより産むが易し」はまさにそれで、実行前の不安感は事実以上のこともある

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・予測される負荷は明確でも正確でもない。今回は別のタスクという「実在する明確な比較対象」と比べられるため、推論が修正される可能性はある。

似たような話だと、自分がガンになる確率が50%だと思っていた悲観主義者が、「実際には平均30%だ」と知った場合に35%に修正したというものがある(楽観バイアスについて)。

・今回の実験ではAはBより楽だとの提示に「そうは思えない」という理由でやる気が上がらなかった被験者も居たため、やっぱり「主観」の影響が大きいのは確か。

比較対象が似たようなタスクだと(楽な方に)やる気が出やすい

・この実験より前に、同じような「比較によるやる気」の実験が行われている。そちらでは疲労度の設定はなかった。

この時、遂行タスクと比較タスクが似たような系統だった場合に、実際の遂行率が向上する可能性が示唆されている。家事とか筋トレとか勉強とか、属性が同じな場合。比べやすいからかもしれない。

・逆に肉体的な負荷と精神的な負荷は比べにくい。個人差もあるし、特に精神的なものは気にするポイントも許容量も異なるし。「精神的にこれだけ疲れます」とか他人に言われてもあんまり実感はできない。

・比較によるやる気を利用したければ、同属性で、よりしんどいタスクと比べるのが効果的ということになる。

メモ

不美人投票

・今回と似たようなものに、不美人投票が有る。
投資の分野の用語で、「悪い材料が比較的少ないから」との消極的な理由で投資先を選ぶことを指す。
まぁこれだって集中すると相場に影響を与えるくらいにはなる。

今回の話と比べても、
 ・前提として何かしら活動をするべきだと思っている(投資先を探している)状態で、
 ・やる気が出るものがない、または意義や価値を感じられるものがない(好材料のある投資先がない)、
 ・じゃあその中で最もまともなものにやる気を出そう(悪材料が少ないものを選ぼう)
と、流れは似ている。

まぁ投資だったら買い控えるとかも手なんだろうが、「活動」の場合は「時間がもったいない」って理由で「何か」はやりたいって感情は湧きやすい。

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