勝手に怒る・勝手に被害者ぶる:敵意帰属バイアス

敵意帰属バイアスについて

・ネガティブな出来事に直面した際に相手の敵意に依るものと認知しやすくなる傾向。

簡単に言えば物事の結果が、自分の都合に悪い場合に「わざとだ。悪意がある」という解釈を速攻ですること。

・厳密に言えば、「他人の曖昧な行動」に対して「敵対的」だと解釈するバイアス。例えばヒソヒソと2名が話しているのを見て「誰かの悪口を言っている」ように見えるなど。

「どこに地雷があるかわからない」ような「突然怒り出す人」は、敵意帰属バイアスが強いのかもしれない。

認知バイアスの一つ。つまり敵意帰属バイアスの原因は認知の歪みであり、「そう見える/そうにしか見えない」状態になる。確信に近い状態。

・「敵意」は元から認知的側面が大きいとされている。怒りと攻撃の関係の修正は認知によってなされるともされる。敵意とそれへの怒りは、当人の認知処理能力に依存するということ。

ここにバイアスが掛かっているのなら危険人物となる。

帰属とは

・帰属とは、結果を見て原因を推論することだと思えばいい。何かが起きてから、原因を考え始める。このため勝手な妄想、思い込みの余地はかなりある。

代表的な例では、ローカスオブコントロール(統制の所在)がある。自分の行動やその結果の原因がどこにあったのかという逆算の認知。この場合は内的(自分に原因がある)と外的(自分以外に原因がある)にわかれる。

良くも悪くもあり、内的な帰属一つをとっても、自惚れにもなるし、自分が悪いともなる。

いい結果は自分の実力、悪い結果は他人のせい、なんて都合のいい帰属もある(自己奉仕バイアス)。特に人の内面などの、答えが出ない、証明のしようのない場合にはバイアスがかかりやすい。

敵意帰属バイアスは主に児童の認知様式

・敵意帰属バイアスは主に児童の認知様式として研究されてきた。攻撃行動の高い児童は、

  1. 符号化の段階で悪意があるものだけ読み取り、
  2. 解釈の段階で相手に敵意があるとする傾向が強かったとされる。

簡単にしてしまえば、「ムカつくこと」だけ認知して、「わざとやった」と解釈しやすい。

・成人の敵意帰属バイアスは研究結果が一致していない。向社会的な場面では敵意帰属バイアスは見られなくなる傾向は高いらしい。

一方で大人になってもなくなるわけではない、とも考えられている。大人は相手の意図を間違えないようになるだけで、曖昧な時は普通に敵意帰属バイアスが出る場合もあるとされる。

攻撃性や犯罪/問題行動の原因となる

・敵意帰属バイアスは攻撃行動と関連がある。そこら中にある「やられたと思いこむ」→「反撃(実際には突然の攻撃行動)する」という行動の原因。

この論文では、犯罪の主たる理由の一つに「敵意」があるとしている。ここでの敵意の定義は、「他者に対する猜疑的な見方や皮肉的でネガティブな認知の仕方」とされる。

つまり認知の歪み。「逆恨み」や「被害妄想」で犯罪と呼ばれるレベルの攻撃性を発揮するものは居るということ。

この敵意の発生源の一つとして敵意帰属バイアスが挙げられている。

敵意帰属バイアスは認知のどの段階で起こるか

・社会的情報処理モデルでは、認知は6段階に分けられる。

  1. 符号化
  2. 解釈
  3. 問題の明確化
  4. 反応の検索・構成
  5. 反応決定
  6. 実行

敵意帰属バイアスは第2段階の「解釈」でのエラーとされる。つまり、それ以降の3~6はすべて前提が間違ったまま処理される

敵意帰属バイアスに限らず、この6段階のどこかでエラーや歪みがあった場合には反社会的行動となるとされる。

逆に全てが正常に処理された場合、向社会的な行動となる。

敵意帰属バイアスとあおり運転

wikiにこうある。

たとえばある車のドライバーが他車に割り込んだ時、割り込まれた車のドライバーはいらだちにより、状況的な理由(たとえば「彼は仕事に遅れそうで不注意だった」)よりも、彼は乱暴なパーソナリティーへと理由を求めるだろう(たとえば「無礼で無能なドライバーだ」)。

他人の行動を「敵対的だ」と解釈しやすいほど、攻撃性が高い傾向があったとする研究もある。

 あおり運転は割り込まれたらキレるタイプと、シンプルに「前の車が遅いから」というのが居ると思うが、追い抜かれたら激怒する、あるいは追い返すなど喧嘩みたいなノリのドライバーは確かにいる。

他のドライバーに対して「こいつは喧嘩を売っている」「こいつは俺の邪魔をしている」という認知をしてそうなものだ。当然敵意を持つだろう。

もちろん「だからやり返してやる」となるのは別の要素であるが、本当に「割り込まれただけ」「遅いだけ」で暴力沙汰まで起こす者はいる。その発端とはなるだろうし、その異常な攻撃性の説明にもなる。

遂行機能が低いと攻撃的になる

・遂行機能とは、目標志向行動を制御するための高次認知能力と定義される。構成要素は、

  • 目標の設定
  • 計画の立案
  • 計画の実行
  • 効果的な行動の遂行

行為障害(反復して持続的な反社会的、攻撃的、反抗的な行動パターンを特徴とする。素行症とも)を持つ女性は言語スキルと遂行スキルが低い傾向があるとされる。言語スキルと反社会行動の間に、遂行機能が媒介している可能性が示唆されている。

言語スキルと攻撃性の関連としては、教育評論家の尾木直樹が「国語が苦手な子供はイジメをしやすい」としている。

また、「キレる」子供は語彙力が低い傾向があるとする指摘がある。語彙力が低い場合「強い言葉」を使う傾向が高いともされる。

恐らくだが、言語能力の低さは遂行能力の目標設定の段階で間違える余地がある。社会符号化モデルで言えば、最初の「符号化」の時点で間違える余地。これらはパターンに当てはめる行為であり、語彙力が低い=対応できるパターンが少ない。依って感情的になり、泣くか怒るかになる。

・別の研究でも、遂行機能が低いと攻撃的になる結果が示されている。

大学生を対象に行われた調査でも、遂行機能が低いと攻撃性は高く、遂行機能と攻撃性は関連があると見られている。反対に、遂行機能が高いほど敵意が少ない結果となっている。

遂行能力が高い場合、敵意という一度湧いた情動を抑制し、適切な認知処理ができるのではないか、と考えられている。

逆を言えば認知スキルが低い場合、すぐパニックになり暴れるということになるが。

成人の敵意や怒り

・勘違いだとか、一瞬イラッとしただとかは、別に珍しくない。ただ普通はそのまま攻撃行動には移らない。我々は自分が勘違いだったのかもしれないし、タイミングのせいかもしれないし、相手が無自覚で悪意がなかった可能性くらいは思いを巡らせる。

ICM(Integrative Cognitive Model:特性怒りと反応的攻撃の認知構造モデル)によると、人が怒る認知的過程が以下。

  1. 敵意的な状況を受ける
  2. 自動的に敵意的な解釈を行う
    1. 反芻は怒りを増幅させる。
    2. エフォートフルコントロール(EC:器質的な自己制御能力)が敵意的な解釈を精査・修正・抑制する。これは遂行能力に類似した能力とされる。
      1. 同様に反芻思考も抑える。
  3. 怒りの表出、攻撃行動

ここでもやはり、一度湧いた感情を精査する過程がある。

「勘違い(自動的な敵意的な解釈)くらいは誰にでも在る」とした場合、やたらと攻撃的な人間と普通の人間との違いは、反芻とECの有無のあたりになる。ECの方は一種のメタ認知、自分の認知や感情を客観視する能力と言える。

甘え:親密な相手ほど敵意帰属バイアスは出やすい

論文:大学生における敵意帰属バイアスと認知機能の関連では、相手を「他人」と「友人」の場合に分けて研究をしている。

否定的な場面に於いて、相手が他人の場合、「悪意がなく、偶然だった」と帰属する率は上がる。
否定的な場面に於いて、相手が友人の場合は、相手を責める傾向が増えた。

成人すると敵意帰属バイアスが消える説もあるが、この研究では存在すると考えられている。

・別の研究では、想定相手を「恋人」としたものがある。

この場合も、恋人じゃない相手よりも、恋人が自分の期待に応えてくれない場合に怒りを感じる傾向が高いとされている。

・一見すると他人に対して攻撃的で、身内に対して甘い方が自然に思えるのだが、上記の結果は、「他人には元から期待していないから」「身内には期待があるから」と解釈されている。

ここから、親密な相手に対しては、「自分は相手の期待に応える責任がある」+「相手も自分の期待に応える責任がある」と考える傾向があるとされる。

このバランスが崩れた場合、「甘え」となるのだろう。例えば自分の責任に対しては無自覚な場合、相手への期待が過度である場合など。「わかってくれてると思ってたのに」とか言っちゃうような。

・ここで面倒くさいのが「期待」とは何を指すかだ。この点で言い逃れが非常に多いのだが、これくらい常識、普通、当たり前、ってのは一種の「期待」である。

厳密に言えば「予測」とした方が良いと思うんだが。「こうなるだろう」との予測がハズレた場合、人間はテンパる。この予測のうち自分に都合のいいものが「期待」。常識だろうが当たり前だろうが普通だろうが義務だろうが「期待」

「相手は自分のことを知っているはずだ」という「期待」もまた、何かあった時に「裏切られた」と怒りを感じる要因であるかもしれないとは思う。

メモ

・敵意帰属バイアスは、統合失調症や陰謀論の攻撃性と思い込みの強さに通じるものがある。

統合失調症は事実として、抗精神病薬であるクロザピン、オランザピン、ハロペリドールのどれを投薬するのが有効なのかと論じられるくらいには攻撃性は高い。自覚はないように見えるが。

統合失調症は「考えや気持ちがまとまらなくなる状態が続く」とされており、どう解釈してもここで言う「遂行能力」が低い状態である。実際の言い分を見る機会もあるが(案外珍しくはない)、思い込みはどう見ても激しい。

ただ、アレ治るので、早く治療を受ければいいだけな気もするが。軽度重度の違いもある。というか、100人に1人がかかる。

・陰謀論は論がおかしいというよりはその「確信度」がおかしい。

可能性として扱うならまだ一定の理解もされようが、明らかに「間違いない」という態度を取る。結果、「決めつけて殴りかかる」というクソムーブを連発している姿がよく見られる。

ちなみに陰謀論者になりやすい特性がサイコティズム(妄想的思考/魔術的思考)。これは統合失調症型パーソナリティ障害の中心的な側面とされる。

・日常的なトラブルの殆どは、悪意よりもむしろ敵意帰属バイアスによる「妄想への反撃」が「発端」であることのほうが明らかに多い。

そう言った意味では別に統合失調症だろうが陰謀論者だろうが関係なく、やたらとそこら中で起こり得る。その傾向を強く持つかそうじゃないかの違いはあるが。

彼らがアレなのも対岸の火事とも言えない。地続きだ。

・まぁ事実として嫌なクソ野郎がマウントなり喧嘩を売ってくるなりもあるが。善悪みたいな基準で考えるとこの辺り面倒くさい。やはり自他境界を弁えるつもりがあるかどうかを見るのが、手っ取り早い。

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