・「油断」だとか「ツメが甘い」と呼ばれる現象。ゴールが見えてくるとやる気が無くなるというか、力がぬけるというか。
これは人間の“仕様”かもしれない。研究で、脳が「もうすぐゴールだ」と認識した途端に、パフォーマンスが落ちることが観測されている。
ゴール直前でのペースダウン
・例えば夏休みの宿題で、7月中に全部片付けようみたいに張り切るのがいる。
その内いくらかは実際にハイペースで消化し、後もうちょっとで全部片付く、というところでやめる。
再び手を付けるのは8月末だ。
・あるいは積み本、積みゲーなんてのも一部はそうかも知れない。
発売を心待ちにし、予約して、ようやく手に入れて、そして放置だとか。後はやるだけなのにね。
・ジャマイカの陸上選手であるアサファ・パウエルは「無冠の最速男」と呼ばれていた。
100メートルで金メダルが当然視されていたが、ゴール直前で失速した。彼は後にこう語ったそうだ。
「75メートルまではトップで、勝ったと思った。その時、横を走る選手の足が見えた」
ゴール目前で油断する脳の仕組み
・「もうすぐゴールだ」と思うと、脳は途端に失速するものらしい。
・諏訪東京理科大学での実験で、脳の血流を図りながら単純な反復作業を一分間行わせる実験が行われた。
途中、残り20秒の時点で声をかける。
一方のグループには「まだゴールじゃない」。
もう一方のグループには「そろそろゴールだ」。
前提として、脳の血流は声を掛ける前(開始40秒後)には活発になっている。作業に集中している状態と思っていいだろう。
・結果、「まだゴールじゃない」と声をかけた場合、脳の血流に変化はなかった。集中状態が維持されたと取れる。
「そろそろゴールだ」と声をかけた場合、脳の血流は下がった。作業の正解率も落ちた。
辛いことを歯を食いしばって頑張っている人間に「もうちょっとだ、がんばれ」と言いたくなるのは自然なことかもしれないが、思っくそ邪魔になってるかもしれない。
「期待」に対してやる気が出ている
・脳がモチベーションを発揮するトリガーは、報酬そのものではなく、報酬を得られる「期待」である。ここでいう報酬は金や物に限らず、勝利とかゴールとかを含める。
後ちょっとでゴールだと思う、つまり報酬を得られると「確信」した時点で、もう「期待」ではなくなる。発生源が消失するためモチベーションも消える。
これはゴールへの確信でなくても「ここまでできた」「だいたいできた」程度の認識で起こる。
もうすぐ終わる、と感じただけで、せっかちにも脳は帰り支度を始めるわけだ。
ある意味、脳は基本的にやる気がなく、嫌々やる気を出しているのが常なのかもしれない。やめれそうならすぐやめる。
・ちなみに「ダメかもしれない」「できないかもしれない」と考えても同じように脳の血流が下がることがわかっている。まぁ、やるしかないなら腹くくったほうが得なのだろう。
ただ、なぜそう思うのか考え、対策を講じることでパフォーマンスを取り戻せる。「解決するべきこと」として取り組む限りは大丈夫なようだ。
「避けるもの」として認識するか、「解決すること」として認識するかの違いかもしれない。
まぁこれらは自ら心がけるべきことで、思考統制とか洗脳みたいなディストピアなことを管理者が行うべきではない。そうさせたきゃ布教でもするべきだな。
油断しない人/時
・こうならない人がいる。後ちょっとでゴールだ、「だから頑張ろう」、と思う人。
これだけだと褒めてるっぽいんだが、彼/彼女たちは知ってる限り普段は腰が重いことが多い気がする。
・直に聞いてみた。「もったいないからやりとげる」だそうだ。
で、ゴール前で実際ペースは上がるか、維持される。気は抜かない。今回の話と全く逆。
こういう性分だと自分でわかっているから、普段なかなか気軽には手を付けられないのかもしれないが。
・ともかく、彼/彼女たちのおかげで、タスクや進捗状況をどのように認識するかが見えてくる。
彼/彼女たちは少なくともゴールが見えてくると「完遂すること」が目標になる。終わらせるまで、終わりじゃない。
対策:
・どれだけできたか気にするのは、前半でなら悪くないだろう。初めにすべてを意識していると腰が重くなる。だがそのままでは最後に気が抜ける。
対策としては、このような「油断しそうなタイミング」で「まだここからだ」と認識するということが挙げられている。
・「だいたいできた」と思ってしまう理由として、工程をあまり意識していない事が挙げられている。
何となくこれだけやったから後もうちょっと、という広い、ぼやけたイメージだと「だいたいできた」と思いやすい。
逆に具体的に残りはこれとこれ、と認識できている場合、このような油断はあまり起きないようだ。
ゴールが見えてきたら、「まだ終わってない」と心得たり、できた分よりも残っている分に着目するのがいい。
・まとめると、
1:完遂することを目的とする(まだ終わっていないと思うこと)
2:次の工程を意識する
以上が挙げられる。
心がけとして、こういう時に格言の類は役立つ。
『戦国策』では、「百里を行く者は九十を半ばとす」とある。九十で半分だと思え、ということ。百里を歩き通すため=油断しないためにはそのように思えと。まだ終わっていないのだからと。目標達成の心構えや自戒として使われる。
「勝って兜の緒を締めよ」というのは今回とは少々違うが、こちらは終わっても気を抜くなという意味だ。剣道の試合で勝利した瞬間にガッツポーズしたら「失格」になったって話がある。戦場だったら油断丸出しで死ぬので。そういう価値観がある。『残心』と呼ぶ。
参照:脳に悪い7つの習慣
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