完璧主義:自己志向型と社会規定型の比較
・完璧主義は自己志向型、社会規定型、他者志向型に分けられる。
この内自己志向型は、イメージ通りの完璧主義と言おうか、理想が高く、その通りになろうとする。
一方社会規定型は、強迫観念に近いと言おうか、出来なくてはならないという使命感が強い。その「完璧」が社会人としての「あたりまえ」だとする認識が強い。逆を言えば出来なければ社会人失格になる。
この「社会」とは各々が属するコミュニティを指す。社会人なら職場での仕事ぶりや人脈。学生ならクラス或いはその年代での、勉強、運動、コミュニケーション能力のいずれか或いはすべてなど。
拠って精神を病みやすい。完璧主義は精神的不適応、即ちうつ、強迫障害、摂食障害などとの関連が示唆されているが、社会規定型はそういったマイナス部分が比較的出やすい傾向がある。
この2つの違いはなにか。
・他者志向型は色々論外なので今回除外。簡単に言えば他人が自分の理想通りじゃないと喚く連中。反社会的傾向のあるナルシストであることが多いとされる。
完璧主義の適応的/不適応的要素
自己志向型の完璧主義/完全主義は4つの要素に分けられる。
・完全性欲求
・高目標設定
・失敗過敏
・行動疑念
完全性欲求
・自己志向型の場合、抑うつとは無相関とされる。
・完全性を追求すること。或いは理想の追求。
ここは他の3つのベースとなるとされる。
・特に詳しく書かれている物は見当たらない。ただ、「内容が高目標設定などとほとんどかぶってる」とする示唆はある。拠って今回はあまり注目しない。
高目標設定
・高い目標を設定すること。
・自己志向型の場合、複数の報告で抑うつとは負の相関=抑うつを遠ざけるとされる。
このため自己志向型完璧主義の適応的側面、つまりはまぁ、いい要素だとされる。
ただし、これ単独では心理的健康を促進しないとする説もある。この場合成人愛着スタイル(成人が特に恋愛面で見せる安心、不安、退去、恐れの4パターンか)との関連が示唆されている。要するにその目標の方向性の話だろう。
・また、適応的側面には「秩序と整頓」がある。セットで考えれば、「高い目標」は言葉通りではなく、「広い視野」の様な意味もあるかも知れない。何かを犠牲にしてここにだけリソースを注ぐ、などではないだろう。要するに、八方丸く収めるようなこと。
・「動機」が不合理な信念(後述)や自己愛による場合、高目標設定の値が高いものでも精神的に不健康であと示唆されている。
・高目標設定の「動機」を見てみると、
・自己志向型は「自分」
・社会規定型は「世間/社会」
となる。
元が違うから結果の価値も違う。完璧にできれば自己志向型は自己実現や達成、成功になるが、社会規定型は「これでようやく認められる」と言ったところか。
同じくその高い目標を「誰が決めるのか」を考えれば、これも自己志向型は自分、社会規定型は「世間様」となる。ちなみに皮肉で様づけしている。
総じて後者は最初から最後まで思考的にはほとんど「主体性」がない。行動としてみれば自主的に世間の「相場」に合わせようとはしているのだが。
不合理な信念(イラショナル・ビリーフ)
アルバート・エリスによれば以下の3パターン
1:失敗して、承認を得られない場合、自分には価値がない
2:他人は自分を優しく扱うべきだ
3:私を取り巻く状況は、常に良くなければならない
これ自体が完璧主義の思考に近い。加えて2は過敏型の自己愛にも共通する。1と3も類似していると言えるだろう。
失敗過敏/失敗懸念
・自己志向型の場合、抑うつとは正の相関=抑うつになることと関連があるとされる。
・失敗に対して非常に過敏なこと。些細なミスで「これはもうダメだ」となること。
・自己志向型の場合、自分への失望、叱責などに繋がる。自分で自分の期待に応えられなかったことを責めるだろう。
社会規定型の場合、世間様から失望される、叱責される、となる。
・これがかなり重症というか、ページ下部に参照先を載せておくが、そのレポートには自己志向型の完璧主義の尺度が記載されている。失敗=失敗懸念の質問をいくつか紹介しようか。
・うまくやれないようなことなら、やっても無駄だと思う。
・失敗したとしたら、私はどうしてようかわからなくなるだろう。
・大切なことに失敗したとしたら、私は人間以下のものに成り下がったような気がする。
・間違いを犯すと、人に軽蔑されるような気がする。
ノイローゼか。
失敗したら全て無駄。失敗した自分は人間以下。これらの認知/思考が抑うつに関係があるのは納得だろう。
行動疑念
・自己志向型の場合、抑うつとは正の相関=抑うつになることと関連があるとされる。
・「その仕事が正確に行えているかどうか絶えず気を揉んでいる」とされる。
自分へのあら捜し。
・これも参照先から質問を紹介する。
・念には念を入れる。
・戸締まりや火の始末などは、何回か確かめないと不安になる。
・何かをやり残しているようで、不安になることがある。
・納得できる仕事をするには、人一倍時間がかかる。
ちなみにこれらが一切ない人間を知っているが、「イージーミス」って言葉が服着て歩いてるみたいな感じなので、多分人がしっかりするのに必要な要素だと思われる。
・ところでこの自分の行動を疑う「視点」は「誰」か。
自己志向型は自分。
社会規定型は「世間様」。
自分への叱咤激励は自己制御の一環として、人間はよく使う。ついでに割と容赦がない。自分に対しては恐らく共感能力が働かないためだと思っている。
だがそのアバターが他人ならば、そのまま「頭の中の容赦のない他人のイメージ」になるだろう。恐らく社会規定型の場合、行動疑念は失敗過敏/懸念と混ざっていると思う。
自己批難/ネガティブな反芻
・特に行動疑念、失敗懸念によりネガティブな反芻や自分を責めることを頭の中で繰り返すことが、直接的な精神的な不健康になる原因とされる。
特にネガティブな反芻のみが、うつ病に関連する説もある。
これを抑制或いは中和できるのが自己志向型の高目標設定に前向きに取り組んでいる状態。
だが、社会規定型の場合、それは世間様ががなりたてているイメージなので言いなりに、言われたとおりに、まるで奴隷のようなテンションにしかならない。
・だが少しおかしいようにも思う。言われたとおりにしてりゃいいだけなら、要領よく最小限のコストで最低限或いは平均値のラインをクリアするだけでいい。
「時間管理のマトリクス」で言えば世間様へ対応は「緊急で重要」ではあるが、以前言ったとおり人間の人を見る目なんぞポンコツも良いところだから、ぶっちゃけ上っ面だけで赤の他人なら済む。腹芸、顔芸、社交辞令や形だけのマナー。
・どうにもここには被害妄想のような、「被注目」の意識があるように思える。
つまり注目されている、見張られている、だからいつでもどこでも完璧でなくてはならない、とでも思っているかのような、「隙きを見せない」振る舞いに。
その被注目がどこから来るのか考えれば、これはある種の劣等感だろう。「頑張らなければ人並みじゃない」。実際、不適応的側面が強い完璧主義者は自尊心が低い状態にあるとされる。
だがこれは、それこそ「世間様」が各々にそう思わせている要素がかなり多い。端的に言えば「人並み」のラインは企業の喧伝や既にそれを持っている者を見かけるなどで上がりやすい傾向がある。
・人間のだめな共同体感覚と言おうか、同じステージで同じパラメータで同じラインじゃなきゃいけない、成功したければその上で勝たなきゃいけないっていう「規格」を錯視している。が、現実にはそんなもんない。自己愛やサイコパスが社長やってんだからわかるだろう。
現実にそれが「ある」として機能してしまうのは、それを信じるものが多いからだ。預言の自己成就。だから彼らに隙間を突かれる。
・「自分が持っている長所を伸ばす/活かす」ことは、世間様を相手にしている限りはできなくなる。やはり最小限で切り上げたほうが良いのだろうが、今度は周りの人間が邪魔をするリスクが出てくる。めんどくせ。
メモ
・ちなみに他者志向型の完璧主義者は世間様を「名乗る」のでなんかもう、最悪としか言いようがない。冗談抜きで人が社会規定型の完璧主義になる原因の主犯だと思う。
・総じてこれは、同じことをやるにしても、同じことを目指すにしても、同じことを考えるにしても、
「自分でやろうと思うか、他人にやれと言われる(と思っている)か」
で大きく違ってくることを物語る。
アンダーマイニング効果、例えば子供が自主的にやっていることに親が報酬を約束した場合、「やる気が無くなる」現象があるが、気持ちがわかる気がするね。
・非常に簡単にしてしまえば、頑張って理想の自分に近づくか、頑張って「人並み」になれるかだ。
後者の時の彼/彼女の心境は、自己実現ではなく周囲からの「無言の強迫/脅迫」に近いだろう。思いの強さの上下ではなく、「質」から恐らく違う。
・「恥」に敏感な我々日本人は、恐らくは社会規定型の完璧主義に近い基礎人格/思考回路をしている。
原動力としては、自分の理想追求よりも何らかのプレッシャーの方が身近ではあるだろう。
・論文によって完璧主義の評価が結構別れている。物によっては「いいとこ何もなし」という扱いだったりもする。
・完璧主義の自己志向、社会規定、他者志向などの分類は、元々はリースマンの社会性格分類に同名のものがあり、それに依っていると思われる。この言葉は完璧主義だけに使われるものではなく、この分類もまた完璧主義だけに当てはまるものではないこと。
参照:
https://ci.nii.ac.jp/els/contents110007864843.pdf?id=ART0009541559(現在アクセス不可)
https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20190224133910.pdf?id=ART0009878407(現在アクセス不可)