先延ばしと自己志向型完璧主義
・完璧主義者が先延ばし行動をする、というのは別に珍しい話ではない。人によっては意外と感じるかも知れないが。
例えば完璧主義者の部屋が汚い、という話。「完璧にできないからやらない」だとかそのような理由で。
或いは失敗を恐れるあまりに「しっかり準備をしてから」と考えて手を付けるのがどんどん遅れる。
基本的に「完璧じゃなきゃ駄目」なので、大変そうだったり無理そうなら、尻込みすることもあるという話。
・自己志向型と社会規定型に言える完璧主義の代表的な問題は、「時間が足りなくなる」ことが挙げられる。
こだわりすぎのやりすぎも原因だが、このような「始めるまでが遅い」ことも理由としてあるだろう。
結果として準備が足りない、期日に間に合わないことが多い、それらへの焦りとして実力を発揮できなくなることが挙げられている。
・1984年の段階で、先延ばし行動と自己志向型の完璧主義との関連は示唆されていたらしい。
先延ばしの害について
参照先の調査により、以下のことが明らかになっている。
原因は時間的余裕のない焦燥。
- アクションスリップの頻度が上がる。つまりイージーミス、ヒューマンエラー。何かなくしたり、目の前にあるものに気づけなかったり、「何しにここに来たんだっけ?」となったり。
- 視野が狭くなる。このためなにか重大なことをど忘れしていたりする。
- 衝動性、つまり目先のことを優先する傾向が高くなる。
特に珍しくもない。これらは「慌てているとやらかしそうなこと」である。
・もう一つ重要なことが、先延ばし傾向が高い学生は熟考方略、つまり「時間を掛けてじっくり取り掛かる」という事自体をあまりやらなくなる傾向があると示唆されている。
つまり害は先延ばしをしている物事だけではなく、性格・能力として評価されるような日常的な部分にも及ぶ。
「焦りの状態」が物事に対しての基本姿勢になってしまっているのかもしれない。焦り癖とでも言おうか。
先延ばしと完璧主義の各要素
完璧主義の要素として、完全欲求、高目標設定、失敗過敏、行動疑念がある。内容も名前の通り。
完全欲求は、他の要素のベースのようなもので、完全を求める欲求の強さ。
高目標設定は、高い目標を自分で設定すること。一番完璧主義らしい要素だろう。
失敗過敏は、失敗に対しての過敏さ。少しでもだめな所があれば、それを重大ごとと捉え、気にしてしまう。
行動疑念は、漠然と「これで本当にいいのだろうか」と常に自分を疑っていること。もちろん完璧であるために。
この内先延ばしに関連するのが失敗過敏、行動疑念とされる。
失敗過敏と行動疑念と自己批難
・高目標設定、つまり目標設定が上方向にガバい傾向はあるわけだが、それ自体は問題ではないことは示唆されている。
だが前回も言ったが、これは「失敗フラグ」でもある。まぁ簡単に言えば「強い敵」に挑むわけだから、負けることもある。
積立式の努力ならともかく、ほとんどの物事は期限がある。
つまり問題は「できるかできないか」じゃなく、「間に合うか間に合わないか」の要素が大きい。
よって「時間切れ」「準備不足」という負け方(或いは諦め方)を、完璧主義者はしやすい。
繰り返すが、ここまでは別に構わないようだ。そもそも負けるといっても目標が高いから負け扱いってだけだし。合格ライン超えてれば実際には問題はないね。
・ただでさえこの状態の上で、完璧主義のネガティブな要素、つまり些細なミスを「致命的」だと捉える「失敗過敏」、
自分がやってることが本当に「正解」なのか、なにか間違えていたり忘れていたりしないか常に疑い続ける「行動疑念」の2つの要素、
加えてこれらからなる「自己批難」が直接の精神衛生に害となるものとされている。
(どちらも捉え方に拠っては価値があるため、頭から否定するのは不適切だろう。精度を高めるためには機能していると思われる。また高目標が有益性しか強調されていないが、この「高目標」は恐らく言葉通りではない)
問題はその敗北の捉え方、つまりは自己批難だということ。それが習慣化して「自分はそういう奴」となるのなら、学習性無力感に近いんじゃないだろうか。
元からある完璧主義と、
失敗からの自己批難による「もう、お前には、無理だ」という認知と。
つまりドライバーとストッパー、アクセルとブレーキ、頭の中が、「軋む」。
この状態は慢性的な絶望感を抱えているとされる
「自分が不完全であることを認められないタイプの完璧主義者」の
「理想は高い、しかし実現可能とは思っていない、かと言って理想を下げることもできない」
という状態と一致するだろう。
自己志向型完璧主義者の先延ばしの理由
・やらなきゃいけないのに先延ばしをしてしまう人は、大抵自分でもこれを後回しにするのはおかしい、すぐにやるべきだ、とは思っているだろう。つまりは合理的思考や状況に依る必要性に上回る「何か」が、先延ばしをすると決めている。
・自己志向型の完璧主義の場合、何よりも「失敗への恐怖」が大きいとされる。特に完璧主義でなくてもこれは当てはまることが多いが。
俯瞰的に見れば、だったらさっさとやるなり調べるなり準備なりすればいい、となるのだが、主観的、つまりは感情的にはそうも行かない。
単純に「怖い」と感じたものに自分から向かうようなことを生物はしない。
肉食獣だって狙うのは草食獣なわけだよ。しかも牙やら爪やら足の速さやらと、生まれつき勝てそうなスペックを持っていて。
同種で争うことはあるが、それは基本「やむを得ず」か「それだけの理由/価値がある」かで(オスライオンにおけるメスの獲得など)、共食いが主食な生物なんていないだろう。多分。
一部の人間はストローク的に共食いしまくってるわけだが、イジメ、パワハラ、モラハラ、DVなどの加害者は基本、被害者を「こいつは自分に逆らえない/反撃しない」と認知している。
ともかくつまり、何らかの欲求がある上でも、できることしかやらない、やれそうなことしかやらない、最大限安全に。それが生物の基本。
罠にかかる動物は、欲望に負けたのではなく、罠に気づかなかっただけだと思う。
では、「できると思えること」の範囲が失敗と共に縮小していく今回のような状態では、例え能力的には楽勝でも、認知的には「無理/大変/リスクが高い」となる。
つまりは「恐怖の感情」を抱く。
自己志向型の完璧主義による先延ばしの攻略は
http://syasin.hus.osaka-u.ac.jp/013/1303.pdf(現在アクセス不可)による調査で自己志向型完璧主義の、
1:適応的側面(高目標設定)による失敗行動傾向の低下
2:不適応的側面(失敗過敏、行動疑念)による失敗行動傾向の上昇
が、支持されている。また、どちらも直接的な傾向の上下と共に、先延ばし行動を通じての傾向の上下が示唆されている。
つまり先延ばし行動自体が既に完璧主義の負の側面であり、これ自体が「目に見える失敗フラグ」ということ。
また、やはり先延ばしに拠って認知の狭小化(認知的な視野が狭くなる。目の前のことしか見えなくなりやすい)とアクションスリップが促進されることも支持された。
・ただ、明記されてはいないのだが、今回の「高目標」とは、合格ラインが70点のテストで100点取ろうとする、などとは微妙に違うようだ。
ここまで述べてきたように、「全体を見る」「全体的によくあろうとする」など視野が広い状態であると考えられる。
テストで言えば綺麗な字で書こうとか、しっかり見直そうとか、時間に余裕を持って終わるのを目指そうとか。
要するに「見落とし」が発生する余地が少ない視点でいる状態。
逆に先延ばしで発生する「認知の狭小化」はその逆の状態であると言える。
・こうなってくると気になるのが、完璧主義…とは言わないまでも突発的に異様に拘りを見せる者がいることだ。
知ってる限りは能力は平均なのに自信がなく、「これだけはがんばって完璧にしたい」というような心境になっている事が多い。
これが、まぁ見たことあるならわかるだろうがチームだと大抵迷惑になる。
時間が過ぎても、周りがそのせいで困っていても、それでも止まらないとかになることもある。これも認知の狭小化と言えるだろう。
つまり突発的な「しっかりやろう」は周りが見えなくなる可能性。
言葉通りの「高い目標」は裏目に出る可能性。
やはり本質は広い視野のキープではないだろうか。