自己目的化の意味
簡単に言えば「手段が目的になる」こと。「目的のために手段は選ばない」の正反対。
本来の意味や目的を離れ、手段であったはずの行動そのものの実行が目的になること。
本来の目的がそのアクションの理由であったはずが、個人の思い込みや欲を果たすための行動になる。
目的を見失っているので、目的に対して「不適切な行動」となりやすい。特にやりすぎの方面で。暴走。脱線。ActivityTrapと呼んでいるところもある。
自己目的化の例
自己目的化は一見分かりづらいが、かなり身近なものだ。
最も多くに伝わるだろう例では「ノルマ」による問題が有る。ノルマは組織が個人に対して(強制的に)割り当てた「個人の労働量」を指す。
例えば営業のノルマで、同僚から顧客を奪うなどのソシオパス的な行為は、会社から見て一切プラスになっていない。
Wikipediaの「ノルマ」のページによれば、警察が検挙数のノルマのために水増しを行う、アメリカ軍の募兵官が採用数ノルマを果たすために貧困層を狙い撃ちにするなどが挙げられている。
これらは一見すると「目的のために手段を選ばない」ように見えるが、そもそもの目的が見失われ、行動が目的化した上で手段を選ばない状態であり、自己目的化と言える。
もっと簡単にしてしまえば、小学生がドリルの宿題で答えを丸写しするような行為。勉強のための「宿題」で、ただ書き写すだけでは本来の意味はない。ただしこの子供の目的が「さっさと宿題を終わらせる」ことである場合、これで目的を達成したことになる。
このように本来の趣旨から外れ、行動を果たすことのみに執着すること。数だけを稼ぐ、形だけの演出をするようになりやすい。当然「質」が犠牲になる。
例えば健康のために運動を始め、夢中になりやりすぎて体を壊すなど、「本末転倒」と呼ばれる結末の多くは自己目的化と言える。
「説教グセ」はほとんど自己目的化していると言える。相手に問題があり、それを指摘する、注意する、改善させるなどが目的であったはずが、「まだ言い足りないから」と関係ない話まで引っ張り出し、それが数十分続くなど。目的が「自分がスッキリすること」にすり替わっている。
学校の服装規定。身なりを良くするためのものが、「校則違反を炙り出す」ための方便になるなど。
セネカによれば古代ローマ人は、言葉通り「食べるために吐いた」という。美食を食って満腹になると、吐かなければ次の美食が食えないからだ。食事とは腹を満たすためのものだとするのなら、これは「食べる」こと自体が自己目的化していると言える。
他人が自己目的化に陥っている場合、観測する者はかなりの違和感やグロテスクな印象、狂気のように見えることがある。しかし当人は気づかないことも多い。
自己目的化のデメリット
オーバーアチーブメント。過剰達成。やりすぎのこと。
加減を気にしない。あるいは多ければ多いほど、強ければ強いほど良いという思い込み。
行為自体が目的なので終わりがない。自分からやめる理由も弱い。完璧主義的な「過剰なこだわり」に繋がりやすい。計画の遅延や周囲との齟齬など。
安直で間違った方法が効果的に見える危険性。
健康のために体重を落とそうとする。体重を落とそうとして絶食し、体調を崩した。この様に本来の意図を忘れると、手早く効果的に見える場違いな手段を選びかねない。
自己目的化の原因
無理解。それをやる理由を元から分かっていない。仕事や規則などに対して「表面上の理解」だけで取り組む。この場合に「独自解釈」あるいは「自己都合」が行動原理になる。特に組織の場合、「指示は伝えたが意図は伝えていない」場合にはこうなりやすい。
この上で「ズルしてもばれない」なら、「形だけの達成」が目的となる。企業でも公務員でも時に業務形態そのものが問題であることが発覚するのもこのためだろう。
フリーライド。タダ乗り。確信犯。別の目的を果たすための実行と、それを隠すための方便。本来の目的はただの煙幕に成り下がる。
学校の服装規定で言えば、熱血教師の他者支配や自己顕示欲のために校則が「利用」されるなど。後はモラハラやDVの加害者の口実。なのでこれらを見破るためには「社会的に見てやりすぎかどうか」を見たほうがいい。
あるいは警察によるスピード違反の取締が「財源」になっており、交通安全を促すのではなく、金を稼ぐために違反車が出るまで「隠れている」「待ち構えている」などの批判も在る。
誤信念。特に「これをひたすらやっていればいい」というタイプの思い込み。いつまでもそれだけでいいと思っている。信仰。祈祷。
特に練習・努力に見られる。これらに対して「頭使わないと練習は普通に嘘つくよ」とも言われている。
中毒。自分のための行動は、没頭しやすく、夢中になりやすい面がある。
行動自体が目的のため、すぐに手応えや達成感が感じられる。一種の楽しさや充実感を感じ、中毒になりやすい。フロー状態になりやすい性格がオートテリックパーソナリティ、つまり「自己目的的な人」。
基本的には目的を見失っているので暴走する可能性のほうが高いが、管理や準備により良い方向に持っていける余地は一応ある。