現在バイアス/現在志向バイアスとは
・誘惑に負ける、或いは後回し/先延ばしの一因。
・認知バイアスの中では身近な部類。
・自覚すれば対応できるとも言われている。要は「自分は意志が弱い」として計画・対策を練ることが。
現在バイアスとは
・端的に言えば「今」が重要に思え、その分「未来」が小さく見えること。
・アメリカのダニエル・カーネマンが存在を指摘した。現在の利益を重く感じ、将来の利益を軽んじる傾向。行動経済学では「時間選好率が未来に向かって小さくなること」と定義される。
これによる時間の価値が等分ではないことは「時間非整合」と呼ばれる。
・私達が自分に対して感じる「意思の弱さ」は、大抵の場合何かしらの即物的な誘惑に負け、或いは気を取られて目的を失念し、長期的な目標に影が差した時だ。この「即物的な誘惑に負ける」原因が現在バイアスとなる。
・利益だけではなく、危機に対しても将来的なものは軽んじ、身近なものは過大評価する。先延ばし、後回しの理由の一つ。
・またこれは、人の判断が挑戦よりも今を守りたい、保守的に傾いていることの理由でもある。一概に悪いとは言えない。
・それまで行動経済学では「人間は利益を最大化するため、合理的に動く」のが基本とされていたが、これの否定となる。ダン・アリエリーも「予想通りに不合理」なんて本を出してるし。
時間選好率
・端的に言えば「その時間」を重要視している度合い。冒頭の将来に向かって時間選好率が低くなる、というのはそのまま将来は比較的重要視してないということになる。大抵は「今」を重要視する度合いの様な使われ方をしているようだ。
・この意味で時間選好率が高い(今を重要視する)ということは、せっかちとも言える。逆は我慢強いとも。
・逆に将来に対しての時間選好率が高い場合(将来を重視する)はそのまま「将来バイアス」と呼ばれている。経済学的にはこちらは基本正しいため、問題視はされていない。多分掘り下げれば問題は出てくる。
「今」の過大評価、「未来」の過小評価。
・面白いのが、オンライゲームで人はなぜ課金するのかという論文で現在バイアスが引き合いに出されていることだ。ここでわかりやすい説明がある。
例えば,1年後の1万円よりも1年1日後の1万100円を選択する.
しかし1年が経過し,その計画を実行する段階になると,今日と明日の間の時間選好率は大きいため,明日の1万100円よりも今日の1万円を選択してしまう.
計画時点では将来の大きな利得(明日の1万100円)を選択し,実行時点では現在の小さな利得(今日の1万円)を選択する.すなわち実行時点で現在重視的(現在偏向的)な選択をするのだ.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbef/11/0/11_1/_pdf/-char/ja
最初は100円お得だから一年と一日コースで、となるのだが、直前になったら100円くらいどうでもいいからはよ!ってなると。
判断基準が変わっていることに注目したい。計画段階では「金額」を見ている。直前になると「時間」を見ている。
経済学的な視点で言えば、正解は「金額=利益」に注視してそれを達成することだ。計画段階でのプランは正しいと言える。この段階では実質「一日多く待てば、100円多くもらえる」という認識。
しかし、直前になり「時間」が視野に入ると逆転する。100円位どうでもいいから一万円はよ!となる。
つまり「一日」と「100円」の「トレード」になる。端的に言えば、いつの間にか「儲け話」だったはずが「取引/交換」になっている。
ちなみに一万円を365日で割ると一日あたり28円弱。一日で100円は、それまでの一年よりレートが高い。得でしかないのに、我慢が難しいわけだ。
御大層な計画を立てて直前になって「やっぱやめた!」みたいなね。しかもその判断はある程度の正しさを錯覚させるものだったりね。
時間非整合性が高い人間の分類
・上記引用では、時間非整合性が高い、つまり現在バイアスが強いオンラインゲームプレイヤーは2種類に分けられている。
バイアスに従順か、理解して対応できるかの違い。他のバイアスにも使える分類だ。
ナイーブ
・バカ正直、考えが甘い、騙されやすいなどの意味。
・現在バイアスに気づいていない。未来の自分は、今の自分の計画に従うと考える。未来の自分はそれに従わない。
ソフィスティケート
・洗練された、教養のある、世慣れた、などの意味。
・自分の判断が現在バイアスによるものだとの自覚がある。未来の自分は、今の自分の計画に従わない可能性の認識。
自覚があるため、達成のための工夫をする傾向。
・論文では、ナイーブプレイヤーは課金するつもりがないのに課金したり、予定よりも課金したりするとされる。
ソフィスティケートプレイヤーは課金するなら最初からその予定であるとされる。無課金なら無課金を全うするとも。
現在バイアスへの対応
・現在バイアスの特性を知った上で自分の判断を精査するだけでだいぶ違うとされる。
現在バイアスという認知に対しての「この判断は現在バイアスではないか?」とするメタ認知。
論理的思考あるいは合理主義的な視点では、現代バイアスに気付くのは結構簡単だろう。
数値的に損してる方を選んでいる、或いは当初の目的と違うことをやっていれば、それ以外の「何か」に脱線していると言える。
・こうなりやすい大きな理由として、「時間の価値」がよくわからない、或いは可変するものだというのが挙げられる。
時間と金を比較する時、人間の判断はかなりの個人差が出る。数分、数時間の価値を計算する場合によく使う物差しは自分の給料から計算した時給だが、24時間仕事してるわけじゃないからこれはアンフェアだ。加えて同じ1時間でも仕事時間とプライベートな時間も等価ではないだろう。
端的に言えば、「金と時間は正確には比べられない」と言える。要素が多すぎて人間の頭では多分無理だ。AIが計算してくれたとしても、それに対して「納得」できるかどうか怪しいものだ。この上で気分で変わるんだからたまらんな。
メモ
・大体は現在バイアスは問題を発生させるのだが、必ずしも悪いとは言えない。
時間の価値はかなり個人差がある。能力や性格と言うよりも状況に依るもののほうが多い。
極論、砂漠のど真ん中で迷子になり、今すぐ水を飲まないと死ぬ状況だったとして、
「今すぐコップ一杯の塩素臭い水道水が飲みたいか、一週間後にミネラルウォーター1リットルがほしいか」
とか聞かれても、答えは決まっているだろう。ここで後者を選んだら死ぬ。
後天的な学習に依っても変わる。大成した者は時間の価値をわかっていて、それを努力や準備などの「投資」に回したエピソードも多い。これらを知れば意識も変わるだろう。できるかどうかは知らんけど。
逆に「今、ここ」を認識せず、将来のあれやこれやを常に思い浮かべて不安になるから精神を病むのだ、とされることもある。
総じて我々は現在バイアスに対して塩梅と即応性を学ぶべきだろう。状況によっては「損だが、やるしかない」とするべきこともあるだろう。
そもそも多分対象によって可変するものだろこれ。
・あと、全部ひっくり返してやるが、現在バイアスは時間選好率じゃねーんじゃねーかな! とも見れる。
単純に主観、感情、欲求VS思考、論理、計算で後者が負けてるだけじゃないのかと。
前者はリアリティがあり、後者は脳内シミュレートだ。
「自分が感じている状況」VS「絵に描いた餅」。
こっちのほうが個人的にはしっくり来る。
例えば先程の1年と一日まてば1万100円もらえるって話だが、その日が目の前になってきたら欲求も高くはなる。
・これと似たような有名な実験にマシュマロ・テストというものがある。マシュマロを食べるのを15分間我慢できるかどうか。達成したらもう一つもらえる。
マシュマロを食べてしまった子どもたちはマシュマロに「触れたり」「匂いをかぐ」などの行動が多かったとされる。
逆に15分我慢できた子どもたちは「マシュマロを視界に入れない」「気をそらす」ような行動が多かったという。
この場合、前者はナイーブ、後者はソフィスティケートだと言えるが、「欲求をさらに刺激する行動を取ったかどうか」でも分けることができる。
この子どもたちから学べることは、欲求を我慢するより、欲求を目覚めさせないことのほうが重要だということになる。私達はこれらの選択を「精神力」由来のものだとすぐにしたがるが、少なくとも工夫により擬似的に再現/実現は可能であること。
逆を言えば(特に大人が多いが)「自分の我慢/意志力の過大評価」は目立つ。
まぁ、別の見方もできるということ。時間選好率という時間に対してのスペクトラムかも知れないが、シンプルに古来から言われていたような「欲と理性の戦い」かもしれない。
ただしどの道、「今」の価値が重ければ、それだけ将来は軽んじられる傾向は確かにあるようだ。
参照
https://froggy.smbcnikko.co.jp/9030/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbef/11/0/11_1/_pdf/-char/ja
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