集中力の一瞬のラグ
・パナソニック技報から。
同程度の認知処理時間が必要な認知タスクの問題を連続で実施していると,その処理時間が著しく延びる問題があることに着目している.
第1図は,難易度が同じ問題の認知タスクを連続的に被験者に与えたときの各問題の解答時間を示したものである.ほとんどの問題は数秒程度で解答できているが,そのなかには10 秒~30 秒程度かかって解答している問題がある.
すなわち,執務環境変化などにより知的生産性が変化する場合には,各問題の解答時間が一様に変化するわけではなく,解答に長い時間がかかっている問題の数が変化することにより,全体として作業効率が変化していることがわかる.
解答に長い時間がかかっている問題は特に難易度が高いわけではないことを考えると,この問題を解答する際に解答作業に集中しておらず,ある時間だけ休憩している状態であると考えることができる.
https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/ptj/pdf/v6201/p0110.pdf
・参照先のグラフを見ればわかるが、一点突出している。同レベルの問題なのに、極端に時間がかかっている箇所がある。
・「頭が一瞬止まっている」こと。集中できていない時はこれが多く、集中できている時はこれが多い状態であると、ここではされている。
・同じ作業に対し、体感的にはいつもと変わらないのに、時間的にはブレがある事の理由になるだろう。
・参照先では他にも同レベルの課題に対して回答時間に若干ブレがあることを挙げ、ここから一般に言われる「集中している時間」を作業状態(集中状態)、短期休息状態、長期休息状態に分けている。
これらはタスクが数秒で解けるものなので、非常に短時間の話。
・即ち集中している時間よりも実際に集中している時間は少ない。一応参照先では短期休息は集中状態の一部(セット?)として扱われている。
面白いことに、「集中法」であるポモドーロ・テクニックと構造が同じになっている。25分作業、5分休憩、それを何度か繰り返したら長めの休憩を取る方法。ただの偶然だろうか。
また、この勝手な一瞬の休息はマイクロスリープにも似ている。睡眠不足などが原因で発生する、数分の1秒~30秒ほど勝手に寝てしまう現象。短期長期の休息は「回復」の必要性があって行われるものなのだろうか。
・恐らく長期休息が多くなってくると、「集中力が切れてきた」と自覚できると思われる。長期休息が生じないのが「集中状態」、とここではされている。
言い方を変えれば、長期休息が多いか少ないかが、そのまま集中できているか、できていないかになる。
・参照先、第4図の2つのグラフは同一被験者の集中状態だが、2つめは長期休息が非常に多く、実質1つめの半分の効率しか発揮されていない。繰り返すが、同レベルの難易度の課題でこれだけの差。
・ざっくりまとめてしまえば、これは「同じ人間が、同じタスクに対して、かかる時間が二倍違うことがある」ことを示す。
人間がタスクを行うデフォルトが集中非集中どちらの状態か知らんが、2つめのグラフの状態を常だと仮定するならば、「集中できれば二倍の効率が出る」とも言えよう。
また、同じタスクが数秒遅れてもそれは短期休息に該当し、これは問題ではないこと。それが極端なら集中できなくなってきている。
映画館効果補足
・この論文、パナソニックからなので、照明関係に話が続いている。照明による集中力の変化について。
・集中力と照明の関係として映画館効果が挙げられる。以前やったが、これの補足。
・一般的なオフィスのベース照明が5000k、750lxとする。
この上で集中度向上照明として設定されたのが、ベースの照明5000k、300lx、タスク照明が6200k、450lxとなっている。
ああ、kはケルビン、この場合は色温度を表すため使われ、高い方が青っぽくなる。5000は蛍光灯で言う「昼白色」、大体一般的とされる色温度。
lxはルクス、1ルーメンの光束が1平方メートルの面に当たったときの明るさ。多いほど眩しい。
・タスク照明の6200kは蛍光灯で言えば「昼光色(6500くらい)」に近い。オフィスなどで使われる、ちょっと寒々しい明るさの照明。今回の論文では「文字の見やすさ」を織り込んだらしく、これになったのだと思われる。
つまりはこの環境はやろうと思えば家庭で作れる。電球変えるだけだし。後述するがパナソニックが色温度6200kの照明売ってるし。
・まとめると、普段のオフィスより弱めのベース照明と、それよりは明るくて微妙に青っぽい光をタスク照明とした、ということ。
ベースとタスク合計の明るさとして、手元は普段と同じ750lxになる、ようだ。
劇的ではないが、普段の状態よりは映画館効果に近くなっている。さて、結果はどうか。
中度向上照明は標準照明に比べて有意に高く(p < .01),集中度向上照明は標準照明に比べて集中時間比率を差で平均約5 %ポイント,各人の向上率の平均で10.0 %向上させる効果が確認された
https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/ptj/pdf/v6201/p0110.pdf
・ちなみに実験環境に於いて、被験者達の飲食物は支給品のみ、起床、就寝時刻などの生活統制から、気温、湿度、二酸化炭素濃度まで注意を払っている。
照明以外の影響要素は無いと見ていいのではないか。企業の発表する研究は結構「新しい商品に箔をつけたいだけなんじゃないのか」と疑える物が多いのだが、これは徹底している印象を受ける。
・でもまぁパナソニックからこういうデスクスタンドが出ている。
こんなのも。
これらが「文字くっきり光」、となっている。ネーミングセンス! いや、割とださめのほうが何故か売れる傾向あるっぽいけど。わかりやすさ?
この文字くっきり光の色温度が6200k、今回の実験で使われたものと同じ。研究成果として商品なのか、文字くっきり光の集中力に与える影響を研究したかったのかわからないけれど。
・一応の懸念点としては、色温度6200kってのはブルーライトが豊富だと思われるため、不眠で悩んでいるのなら使い所は考えたほうが良い点。元から平気なら気にしなくても良いと思うが。
眼精疲労の方は文字が見やすいならむしろ負担にならないのではないだろうか。
・重要な点として、この論文では一日単位での疲労も測られている。これに依ると標準照明でのみ疲労が見られ、他では見られなかった。
「集中状態になっても疲れない」と言える。まぁ90分の作業の疲労の話だから、規模が大きくなったらわからないのだけれど。
どうせやるべきことなのなら、効率が倍にもなり得る集中状態には、なったほうが得と言えるか。
メモ
・「手がけた時間は多いほうが良いはずだ」という安直な信仰がマイナスになっている疑いがある。
というか時間的なコスパよりも集中力の質のほうが重要性高いことになるか。
・長期休息の役割がやっぱりはっきりしない。「休息」という名前も暫定的につけられただけで、実際に回復動作なのかどうかから怪しい。
見方によっては長期休息のせいで疲労が溜まっているとも見えるし、長期休息でネガティブなものを解消して尚且疲労が残っているとも見えるし。