記憶

ワーキングメモリについて

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ワーキングメモリとは

・流動性知能の一つ。作動記憶、作業記憶などとも呼ばれる。
認知機能である。情報の一時的な保存、操作を行う。

例えば暗算で3+8+9を行う場合、3,8,9という数字を頭の中で維持しつつ(保存)、計算(操作)もしなければならない。これらの作業を行う領域。

 

・知能と強く関連があるとされ、注目されてきた。ワーキングメモリのスコアが高ければ知能テストのスコアも高い傾向がある。

 

マジカルナンバー7

・単純な数字をいくつ覚えられるか、という点について、5~9程度だと今までは言われてきた。7±2だからマジカルナンバー7なんて言われたりして。

ジョージ・ミラーの論文では、日常的な対象に対して、一度聞いて直後に再生するような場面においての数が7±2だったという。

これは「個数」ではなく、一つの情報の塊での数。7つ前後の情報の塊なら、ワーキングメモリ内での記録と再生ができるということ。

この情報の塊は、この分野では「チャンク」と呼ばれる。数字なら7、文字なら6、単語なら5くらいが、平均的なところだそうだ。これは「それを知っているかどうか」と、「それを言葉にした時にかかる時間」の2つと関係があると考えられている。

チャンクという概念についてはもっと説明が必要かもしれない。

 

チャンクとは

・例題を出そう。「次の10文字をその並びのまま覚えてください」。

問題1:8350962417

問題2:0123456789

はい。問題1は見ただけでめんどくさい。問題2はなんかもう、見た瞬間わかるね。こういうのにトラップ仕掛けるのが趣味だけど、まぁ今回はしてない。

問題2がアホみたいに簡単に見える。だがちょっとまってほしい。問題1も材料は同じだ。どちらも0~9までの数字をかぶらないように配列した。この難易度の違いはなにか。

 

・問題2を見る時、ワーキングメモリとしては順番通りの0~9までの見慣れた数列であり「1つのチャンク」だけ覚えればいい。記憶容量は1つ分で済む。思い出す時はワーキングメモリからではなく結晶性知能、長期記憶などと言われる「知っていること」をアウトプットすればいいだけで、これまた手間はかからない。

厳密に言えば全部を覚えてはいない。知っていることと同じと判断し、それを想起しているだけ。回答として口にするのは「見たもの」ではなく「知っていること」になる。

さっき「トラップを仕掛けたい」って言ったが、あながち冗談じゃない。ろくに見ていないから、引っかかりやすい。早とちり、勘違いの元ってのはこういうところに仕込まれてるものだ。

逆を言えば管理された環境で、整理された情報を扱う場合、非常に快適だということでもある。

ともかく、「作業」としては、こちらは簡単になる。使用メモリ1。

 

・問題1はランダムで規則性がないため、丸暗記しなくてはならない。数字に規則性がないと、個別に覚えなくてはならなくなる。必要な記憶容量は当然増える。単純に考えて使用メモリが10必要になる。

「区切り」を設定することで負担を減らすテクニックもある。チャンキングと呼ばれる手法。
8350962417よりも、
835ー096ー2417と表記したほうが見やすいだろう。

これは一見すると、1つの情報を3つに分けたように見えるが、「10の情報を3つにまとめた」と考えたほうが今回は適していると思われる。使用メモリ3。まぁ、できそうには思える程度にはなった。

まぁ身近だと思うよ。電話番号とか、ハイフンなしだと見にくいだろう。億を超える数字に対しての3桁区切りのありがたさだとかもね。

 

7→4

・容量の話に戻ろう。マジカルナンバーなんて言われて7個前後のチャンクを格納できるのがワーキングメモリの容量だと思われてきた。

だが、その後の研究で、どうも4つくらいしかないんじゃないの、となった。子供や老人はこれより更に劣る。

7だと考えられていた理由は見かけ上の高スコアを人が取ってしまうからで、厳密な条件の統制と適切な推定法を使うと、4になる、と。

裏を返せば純粋なワーキングメモリの容量以外での工夫で、3メモリ分くらいの働きをしていることになる。

逆にそれがないと7から4程度に能力落ちるってことにもなる。半分近くに低下するということに。練習による熟練、特にスピードアップに対しては、これは非常に大きいのではないか。

アクティブなのは一度に一つ

・ここまではチャンクを格納できる容量の話。で、ワーキングメモリの機能はそれだけではないわけだ。「編集」の話。つまり、計算したり、考えたり。

cowanの説によれば、計算したりすることができるチャンクは一度に一つだそうだ。

例を挙げればわかりやすいだろうか。また例題を出そう。

1:次の数字を覚えてください。7,5,3。

2:覚えた数字をそれぞれ3倍にしてください。

 

まぁできないってこともないだろう。この時、「1つずつ3を掛けていった」はずだ。いきなり覚えてた数字全てが21,15,9にまとめて変わったわけではない。7*3,5*3,3*3を頭の中でやったはずだ。

このように、「変更を加えられるのは1チャンクずつ」という制限がワーキングメモリにはあるとされる。これは現状では説の1つの、さらに1部分であり、2つのチャンクを同時に動かせるようにしようとかそういうは試みは見かけない。

 

ワーキングメモリのトレーニング

・ワーキングメモリのトレーニングは2種類ある。

 

ストラテジートレーニング

・1つはストラテジートレーニング。「方略」のトレーニング。ワーキングメモリへの記憶のコツなどを学ぶ。

1982年の実験では、80桁まで数字を覚えることができた者もいたという。数十桁の数字をグループ化し、1つのチャンクとして扱う手法を訓練したそうだ。

チャンクとしては4つが限界なのだとするのなら、1つのチャンクに20個の数字を押し込めることに成功したと言える。

円周率を数百桁言えるような人々が、数字を擬人化/擬物化した上で数字の並びをストーリーとして覚えるなどのイメージ的な覚え方をしているが、ああいうのに近い。っていうかアレもそうだろう。

 

・ただ、「方略」が使えない場合は全く意味がない点(数字は80桁覚えられても数字以外は並の記憶力のままだった)や、ワーキングメモリに連動して上がることを期待していた知能の上昇は見られないなど、多くの「ワーキングメモリを鍛えたい者」にとってはやる意味が疑問視されそうだ。

 

・これは前述した「ワーキングメモリの容量とは違う能力」だろう。マジカルナンバーと実際のチャンク数との差異を生み出した部分。

応用はあまり効かないかもしれないが、「どの場面で能力を上げたいか」がはっきりわかっている場合、こちらを重視することが有効かもしれない。性能の半分近くを補えるのだとしたら、悪い話ではない。

 

コアトレーニング

・もう一つはコアトレーニング。こちらはワーキングメモリの容量そのものを鍛えようとするもの。

特定の方法などは教えず、課題をひたすら行う。ノリは筋トレに近い。
課題はNバック課題(後述)がよく使われる。

少し難しいレベルを維持しつつ、一日に30~60分を行うそうだ。
負荷をかけることで容量を高めようという方針。やっぱり筋トレのノリだね。

この「少し難しいレベル」に挑戦し続けるというのは、多くのトレーニングに見られる。

 

Nバック課題でワーキングメモリが増えるという話

・Nバック課題という苦行、もといトレーニングでワーキングメモリは向上する、と言われることがある。

Nバック課題とは、いくつか前の答えを後から答える=それまで記憶していなければならないというもの。

例えばN=1なら一個前を答える。2,3,7,と順に表示される画面を見て、3が表示された時に2と答え、7の時に3と答えるのを延々と繰り返す。答えると同時に、今表示されているものも覚えなくてはならない。インプットとアウトプットを同時に行うわけだ。

もちろん1つ前程度なら多くの人ができるが、5つ前、6つ前となるとなかなか厳しくなってくる。楽しくはない。

少なくともNバック課題を解くにはワーキングメモリが必要であることは確かだろう。使ってりゃ鍛えられるだろうという考えも別におかしくもない。

実際やってれば成績は伸びて行くが、それは本当にワーキングメモリが増えたことによってなのか、という疑いは持てる。

 

この記事では、子どもたちが1日15分のNバック課題で、IQが平均5ポイント上がったという話がある。だがワーキングメモリ(短期記憶)がメインの話というわけでもない。

知能の向上した理由として、「注意力が向上した」事が挙げられている。Nバック課題を実際にやってみればわかると思うが、他のことを考えている暇が殆どない。ワーキングメモリを大量に使うのは間違いない。必然的に課題を解くためには、必要なことにのみ注目する必要がある。

結果、注意力が向上した、ということのようだ。つまりこのトレーニングの成果は、ワーキングメモリそのものではなく、そこに必要な情報を入力するセンスの獲得ということになる。

この解釈の上で言うならば、Nバック課題でワーキングメモリの容量が「増える」のではなくて、「使い方がマシになった」または「無駄遣いが減った」といったほうが正確だろう。

 

・見方を変えてみよう。記憶容量ではなく、頭に入れる情報を選別する能力が「上達」した結果、IQが上がったのだと仮定して。

Nバック課題はコアトレーニングではなくストラテジートレーニングとして成果を出したことになる。上達したのは「運用の仕方」の方だから。

同時にストラテジートレーニングと言っても、根源的な要素のトレーニングなら、コアトレーニングと同様の結果を出せるかも知れない。

参照:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/advpub/0/advpub_90.18402/_article/-char/ja/

https://ja.wikipedia.org/wiki/ジョージ・ミラー_(心理学者)

https://ja.wikipedia.org/wiki/ワーキングメモリ

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