愛着障害とは
・ジョン・ボウルビィ(1907-1990)が提唱したもの。愛着は、乳幼児が自分を守る大人との間に築く信頼関係を指す。
・愛着のことをアタッチメントとも言う。まぁ見かけることは少ないかもしれないが、専門的な物を読むなら出てくることもあるので覚えておくといいだろう。
・喋れない、ろくに動けない、できることと言えば泣くしかない乳幼児は、面倒見てくれる大人が必要なわけだ。
「必要な時に助けてくれる存在」を実感として学習できるかとかそういう話になる。
ただしこれは「依存」とは別物だとボウルビィはしている。生存のために他者を頼るのは依存だが、愛着はそうではないと。
同様に、愛着自体は恥じるべきことではないとも。
・彼は愛着を「人間の一生を通して存在する」と述べた。
将来的にこれは、他者とのコミュニケーションの基盤となる。ここで愛着が形成できなかった場合にはコミュニケーションで問題が出やすくなるとも言われる。
・愛着が形成される過程は、ボウルビィによれば4段階に分けられる。
第一段階
・人物弁別を伴わない定位と発信。
誰彼構わず興味持つってこと。要するにあんまり人の区別をつけてない状態。
誰に対しても同じように泣いたり笑ったりする。
誕生から少なくとも8週、一般的に12週(3ヶ月)ほど続く。
・定位は接近や後を追うこと。発信は泣く、笑うなどの何かしらのシグナル。
第二段階
・1人またはそれ以上の弁別された人物に対する定位と発信。
親密な行動が母性的人物に対して顕著になる。その相手に対しては特に凝視したり、微笑んだりする。
第一段階の後から生後6ヶ月ほど続く。
・この頃に視覚や聴覚が発達し、愛着行動を取ることに十分に適した状態になるとされる。
なので第一段階の誰彼構わず、ってのも身体能力的な理由かもしれない。
第三段階
・発信並びに動作の手段による弁別された人物への接近の維持。
第二段階の後から2歳ころまで続く。
区別がよりしっかりしてきて、母親の後を追う、帰宅した母親を出迎えるなどが増える。
・特定の人物が二次的愛着対象人物、2号さんに選定される。母親、父親、年長の同朋(兄姉)、祖父母などが多いとされる。
また、無生物にその愛着が向けられることもあるという(移行対象)。
移行対象はタオル、毛布などが挙げられる。ブランケット(ライナス)症候群はこれが続いているとも言えるか。
・母性的人物によく反応する代わりに、誰にでも示されていた親密な反応が減少する。
・見知らぬ人に対しての恐れも出現する。生後8ヶ月には出るので「8か月不安」とも呼ばれる。
「人見知り」の始まりとも。
第四段階
・目的修正的な協調性の形成。
3歳前後まで。
・第三段階までは養育者が「永続する存在である」ということを理解していない。姿が見えなければ極端に不安になるなどにこれは見られるだろう。
第四段階では養育者が時間的、空間的に永続し、更に独立した存在である(=自分と違う考え・意思を持つ)ことを幼いながらに理解する。
養育者の感情や動機についての洞察などを行い、これにより「協調」が見られる。
また、姿が見えなくなっても戻ってくることが予測できるならそれほどパニックにはならなくなる。
・養育者の意図や感情を理解し、協力して行動するようになる。
愛着障害(アタッチメント障害)とは
・虐待やネグレクトなどで愛着が正常に形成されない場合、対人面での関係構築や自己コントロールに問題が出ることを指す。
DSMでは愛着にまつわる症状は2つある。
反応性愛着(アタッチメント)障害
・Reactive attachment disorder RAD.
抑制型とも。
・無感情、無反応。嬉しくてもそれを表に出さない、辛いときにも弱音を吐けないなど。
・攻撃的、反抗的。人に優しくされると嫌がる事がある。相手に対して無関心かつ用心深い。
・これらの特徴により、ASD(自閉症スペクトラム)と間違われることがある。
・全体的に人間不信な印象を受ける。嘘を付く、謝れない、悪いことをするなどで大人を試すなども特徴として挙げられている。
脱抑制型対人交流障害
・脱抑制型、または脱抑制性愛着障害とも。
特徴は「文化的に不適切で過度の馴れ馴れしさを含む行動の様式」だとされる。
・初対面の人間にも馴れ馴れしい。見知らぬ大人に平気でついていくなど。
・大人の関心をひこうとするが、同年代との信頼関係を築くのは苦手。
・一見するとADHDに見えるらしい。
大人の愛着障害
・基本的に愛着障害は子供に見られる症状として研究されている。大人で愛着障害だと診断されることは、皆無ではないが相当レアなもの。
一方で愛着障害だ、と感じる大人は結構いるらしく。対人面で我ながらなにかおかしい、と感じているようだ。
だが、抑制型や脱抑制型の症状を見ると、「たまにいる」と言える程度にはそういう大人はいる。ただ、原因が愛着にあるのかはなんとも言えない。
前述の通り、もとから発達障害との区別を注意して付けなければならない程度には紛らわしい。ADHDにしたって、ストレスで同じ症状は出ることがある。
こういった大人たちが自覚しているのが、
- 人間関係構築に難がある
- 感情のコントロールが困難
- 自分を肯定的に見れない
- スプリッティング(全か無か)思考
など。特に女の恋愛においての「愛情試し行動」が愛着障害扱いされやすいか。後述するが、よく聞く。全てがではないが。
実際昔は恋愛の関係構築と愛着の関係も考えられていたらしい。今では人間関係構築に話は広がっているが。
何れにせよ、「当てはめようと思えば当てはまる」という域を出ない。他に「そうなる」理由は複数あるため、断言はできない。
ただ、思春期問題の背景としての愛着障害は論じられることがある。現状の背景として幼児期の愛着問題が存在している、ということはあり得るだろう。
愛着の問題発見のためのチェックリスト
・http://repository.center.wakayama-u.ac.jp/files/public/0/2152/20180820135523323214/KJ00009488202.pdfより。
愛着の問題を抱える子供を見つけるためのものだが、大人にも使えるだろう。実際の行動としてはやらないだろうが、衝動としてはあるかもしれないため、自己分析には。
結構な数があるが、流石に大人ではないだろう、というのは除外している。
・多動について
・多動はあるが、ムラがあるのが愛着障害の特徴とされる。月曜日に特に多動とか、学童保育では多動などがある。
ADHDは多動にムラがなく、ASDが多動なのは居場所探しとのこと。
・モノとの関係
・触りまくる:脱抑制はべたーっと。抑制型はいじって時間つなぎとする。
・独占して貸せない
・なくす/大事にできない
・大事なものは壊せないが、そうでないものは乱雑に扱い壊す。
・渡されたものを落とす。
・仕草や服装など
・爪噛み
・服装の乱れ
・ダラッとした姿勢
・人との接触(脱抑制)
・ベターっと抱きつく、まとわりつく、衣服に手を突っ込む。ちなみに同性でもセクハラは成立する。
・1対1だと比較的大人しい。
・靴や靴下を嫌う
ASDもそうだが、それは知覚過敏によるもの。
愛着障害の場合は、束縛を嫌う、安心を知らない、床と接触したいなどの心理だとされる。
・危険行動
・窓から出入りする、高いところに登るなど。ASDでもやる場合があるが、それは「そこが好き」だかららしい。
・高い所から物を投げる。
・痛がらない。
・愛情欲求:注目されたい欲求や試し行動
・注目を集めようとする言動
・抑制型はわざと意地悪をする
・発言は自信なさげ
・観察者を気にする。何をしているか聞く。何故と聞く。こちらを見ながら逃げる。
・愛情試し行動:抑制型。
許されるかどうかを試す。
自作自演のトラブルを起こし反応を試す。
「お願い」を色々とする。
事件を起こして発見者を装い通告する。
・愛情の馴化。受けた愛情を貯めることができず、愛情をもらう快感だけを求めてエスカレートする。
・これらに注意をすると暗い顔をする、反抗する、咳き込む。
・自己防衛
・なにかのトラブルがあった時、自分のせいにされることを恐れる。犯人探しへ極端な拒絶反応、問われてもいないのに自分ではないと抗弁するなど。
ADHDの場合は説明されると「そうか」と気づく。
ASDの場合は「だって」と理屈をつけるが、納得することはできる。
愛着障害の場合、「知らん」、だそうだ。そうとしか書かれていない。
・嘘や自己正当化。
・人のせいにする。
・抑制型の場合は伏し目がちになったり、顔がゆがむ等がある。
・自分から建設的なことをしない。
・片付けについて
・ADHDの場合は実行機能の問題であり、工夫やサポートなどで可能。
・愛着障害の場合は片付けようとする意欲や気持ちの問題。
・忘れ物においてもADHDは実行機能の問題だが、愛着障害では忘れても平気、なくてもいいという正当化を行う。
参考文献
http://repo.beppu-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php/gk01905.pdf?file_id=9031
https://kotobank.jp/word/%E6%84%9B%E7%9D%80%E7%90%86%E8%AB%96-506462