代替思考
・はい論文。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/52/2/52_115/_article/-char/ja/
侵入/反芻思考の抑制についての論文だが、こちらではリバウンドを減らすために代替思考、つまり「代わりの思考」を用意することについて書かれている。
要するに、「嫌な考えを抑えようとするのではなく、違うことを考えてみたらどうか」という話。
その前に既存の代替思考への懸念点を3つ。
・うつ患者はうつ気分を抑制するために、ネガティブな代替思考をしているとの指摘がある。
このためにネガティブな気分が持続し、症状が長期化すると。つまり代替思考の内容次第では酷いことになる可能性。
・抑制対象と代替思考が「つながってしまう」可能性。
考えたくないことAを考えそうだから、代わりに代替思考Bを考える、ということを繰り返したとする。
最終的にBを見たらAを思い出すようになってしまわないかという懸念(この点は肯定否定どちらも報告があり、検討が進んでいないらしい)。
・現実逃避であること。代替思考によってそれについて考えることを避けるならば、理解や解決が先延ばしになりはしないかという点。
ただ、考えすぎて身動きが取れない、というような時には考えすぎないように代替思考を用いることはプラスに働く。
加えて肯定的な解釈を促すような代替思考の場合もプラスに働く(後述)。
・何れにせよ、代替思考が銀の弾丸とは思わないほうが良いだろう。
ただ、そもそも今回の相手は「侵入思考」だ。こいつは基本空気を読まない。つまり「それどころじゃない」時に湧くこともある。気分じゃない時もあるね。
そういった時に問題のない代替思考で処理できるなら、これは内面の管理法になる。
代替思考の内容で結果は変わるか
・この論文は2つの実験について書かれている。
1つ目。思考抑制によるリバウンドの存在の確認と、代替思考によってそれが低減されるか否か。ついでに視覚可能な代替思考とかも使っている。
・抑制の対象は「最近経験した(できれば今も)イライラさせた出来事」つまり怒り。
代替思考は、無関係な言葉として「しろねずみ」、ことわざとして「旅は道連れ世は情け」、具体的な視覚イメージとして実験するときの教室番号。この他にただ抑制するだけ、一切抑制の指示をしないグループの計5つ。
ことわざが選ばれたのは、ポジティブでネガティブなことを考えると抑制しやすいという別の報告かららしい。
事前にアンケートを取って「他者に寛容であるイメージを持つ」という評定を受けたとのこと。
「人間万事塞翁が馬」でも良かったんじゃないかという気がするが。
・代替思考の手順としては、シンプルに「考えてはいけないことについて考えそうになったら、代替思考を思い浮かべてください」と指示している。
・この結果、単純に抑制だけをしたグループの侵入思考が最も多く、最も少ないのは「自由でいる」グループだった。
代替思考の3つは、これらの中間にそれぞれ収まった。最も効果があったのはことわざ(それでも何もしないよりも悪い結果だが)、教室番号、「しろねずみ」の順番で侵入思考の数が多い。
代替思考の内容次第で効果にブレがあることはここで確認できる。
代替思考と侵入思考の関連/無関連とポジティブ/ネガティブ
・2つ目の実験。こちらは代替思考の内容をもっと詳しく調べようとしている。
「うつ病患者はネガティブな代替思考を使っている」という指摘がされているのだが、それに関連している。
・抑制の対象は「うつ関連出来事(つまり落ち込むような記憶)」とされた。
代替思考の内容は、侵入思考に対して代替思考が関連あるものとないもの。
さらにポジティブな内容とネガティブな内容の組み合わせの4つの代替思考の実験。
代替思考といってもまたことわざ。
- 関連+ポジティブ :「失敗は成功の素」
- 無関連+ポジティブ :「笑う門には福来る」
- 関連+ネガティブ :「身から出たさび」
- 無関連+ネガティブ :「血で血を洗う」
これに加えてただ抑制するだけ、何考えてもOKな計6グループ。細かいところは1つめと同じ。
・侵入思考のリバウンド数は、論文のfigure2を見たほうが早いが、とても興味深い結果になっている。
1つめの研究ではただ抑制するだけのグループが最も侵入思考が多かった。
他の代替思考は、何も考えないよりは悪いが、それでも抑制だけのグループよりはマシだった。
だが今回は「無関連+ネガティブ」が単純抑制の侵入思考数を上回っている。つまり最も酷いことになった。
「うつ患者は侵入思考に対してネガティブな代替思考を用いている」という指摘が正しい場合、彼/彼女の思考は悪循環だということになる。
・他3グループは単純抑制のグループよりも侵入思考は少なかった。
関連+ネガティブの「身から出たさび」でもいくらかマシな結果になっている。やはりポジティブな方が効果的な結果になっているが。
・「何を考えても自由」のグループよりも侵入思考を減らしたのが、関連+ポジティブの「失敗は成功の素」だった。
・以上のことだけから解釈すれば、リバウンドを低減させるための代替思考の内容は侵入/反芻思考に対して、
- 関連している方が効果がある
- ポジティブな方が効果がある
ということになる。「落ち込むようなこと」限定の研究ではあるが。
ただし無関連ポジの方が、関連ネガよりも良い結果を出している。基本ポジティブな方がいいのだろう。
・思ったが、「読書がストレス解消に良い」というのもこれで説明がつくだろう。
侵入思考に対して読書は代替思考として働く可能性が高い。
上記を見る限り、内容は吟味したほうが良さそうだが。
メモ
・やはりというか、思考抑制は脳に負荷をかけているようだ。画面上の「点」を目で追う簡単なテストの際、思考抑制の指示をした場合にはミスが増えるという話がある。
ただ、非常に面白いことに運動を習慣化した二ヶ月後には思考抑制をしてもそれほどミスが増えなくなっていたそうだa)https://www.lifehacker.jp/2013/06/130612habit_formation.html。
これが運動による効果がなのか、そうではないのかとさらに研究がされた。結果、節約を心がけても勉強を頑張っても上記のような思考抑制による「処理落ち」が軽減された。
どうやら、「意識的に何かを心がける」事自体が内面の管理能力か、リソースの成長につながっているようだ。
ちなみに喫煙や飲酒、感情的になること、無駄な浪費などの「我慢したいこと」の回数も減っている。つまり自制心が上がっている。
私達は内面の問題について、結構「やりくり」のようなスタンスで望むことが多い。しかし「意識リソースを増やす/鍛える」という手段も取り得るのではないだろうか。