アメリカのスクールカースト 学校生活における性格分類
・いくつか先に知っておくべきことを。
- スクールカーストという言葉自体は和製英語であり、日本でしか通じない。
- 特にドラマや映画の影響で露骨にキャラがたった描写になっているフシがある。
- 現実にはここまで極端ではないとの声は多い。ただし「階層」自体は研究者によって1990年代ごろから存在が指摘されている。
- 各名称自体はほぼそのままの意味でアメリカでも使われている。ジョック、ナード、ギークなど。
・性格って言葉は色んな意味を含める。大体は人格や、持って生まれた適正/嗜好を想像するが、今回は「集団内に於ける立ち位置と振る舞い」の意味が強い。「キャラ」という描写が一番近いか。
スクールカーストという概念は高校文化に深く根ざしたものとはされるが、Wikipediaでは「人間の類型」とされている。キャラとか個性とかの扱い。
・基本的な構成要素は顔面偏差値+運動神経+コミュ能力。これらが高いほど上位の傾向。
これはアメリカ人の理想像が「異性にもてる、文武両道、コミュ力高い、友達いっぱい」という姿のため、とされる。また、親が子供がそのように育つようにと腐心するという話も。国を問わず、子を社会に適用させようとする親は不思議ではないだろう。
・種類は多いが、ジョック、クイーンビー、ナード、ギークだけまずは抑えておけば良いかも知れない。
カースト上位
陽キャラとして認識される。
ジョック
「キング」とも。
体育会系。ピラミッドの頂点。校内のスター。
アメフトやバスケなどで活躍している。
古典的なB級サメ映画の場合、だいたいサメに食われる。
カースト上位をひっくるめてJocksとも。
クイーンビー(スクールディーヴァ/スクールプリンセス)
「クイーン」とも。
学園の女王。チアリーダーなどを務める。
だいたいサメに食われる。
サイドキックス
クイーンビーの取り巻き。大体2匹いるとされる。
創作においてもやたら多い気がするな。嫌味な女と取り巻き二人って構図。
喧嘩してる時に横から蹴りの援護射撃をしてくるから、あるいはズボンの横のポケット(相棒的な隠喩)が由来とされている。
だいたいサメに食われる。
ワナビー
ジョックやクイーンビー、サイドキックスのさらなる取り巻き。
自分が頂点になることを夢見る(Wanna be)とされる。
影が薄いため、サメに食われるかどうかがわからない。食われる時はまとめて2~3人食われてる印象。
プリーザー
男女で分かれる。
女の場合はワナビー同様クイーンビー&サイドキックスの取り巻き。
男の場合はカースト下位へのタカリ行為を行う。
お願い(please)するからpleasr。
大体サメに食われる。
プレップス
文系の上の方。男ならボンボン、プレッピーとも。
Prep school=私立高校。拠って「金持ちのお坊ちゃま」の様な感じらしい。
プレップスはカースト上位とされているが、ジョックやクイーンビー達とは距離をおいているような言われ方をすることもある。
メッセンジャー
パシリ。キョロ充ともされる。
サメに食われるか微妙。
スラッカー
抜作、馬鹿とされる。いじられ役。
slackは怠惰、怠け者、あるいはグズ、ノロマなど。
スラッカーはカーストの上位側だったり下位側だったりではっきりしない。
引き立て役、道化役とも呼ばれるため、属してはいるのだろう。幸福度はお察しだが。
カースト下位
・陰キャラとして認識される。露骨にLoser(負け犬)とも。
・下位とは言うが、彼/彼女たちはどちらかと言えば個人主義だったり自分の打ち込む趣味(体育会系以外で)を持っている。「カーストに参加していない」という印象を受ける。
上位にそう扱われる、外から見るとそう見える、という話なのが実際の所だろう。
・ナード(根暗の意味)になることが多い。あるいはカースト下位を総称してナードと呼ばれていることもある。
この言葉は本来は軽蔑用語とされている。ただ、後述するが映画では主役だったり、現実にも出世することが多いため、軽蔑用語としての意味合いは薄れてきている。
フリーク
マニア、奇人。一つのことに熱中している者。
ギーク
おたく。いじめられやすいとされる。
ただし社交性自体はあるとされる。
フリークとの違いがよくわからないが、ギークの場合専門分野に於いては技術的に秀でるものがあるような扱いが多い。ハッカーとか。
MITはナードとギークばかりだとか。
ゴス
ナードに属する。
ゴス系の趣味。
ブレイン
ガリ勉。頭がいいと言うよりは勉強しか取り柄がないみたいな扱い。
カースト外
ターゲット
狙われている者。ナードとは限らないし、下位が狙われるとも限らないらしい。まぁ教師イジメとかもあるしな。
バッドボーイ・バッドガール
チンピラ。不良。
あまり学校に来ないというか、学校外になら居場所がある。
フローター
浮いてる。
不思議ちゃんや電波系。
或いは図書館によくいる子のイメージとされる。
実際のところ
・留学生による、実際にはスクールカーストなんて無い/無かった、なんて声もある。
・アメリカの高校の授業形態はどちらかと言えば大学に近く、生徒たちが教室を移動して、授業受けて、卒業に必要な単位とって、という形だそうな。
なので「クラス内のカースト」的なスクールカーストという概念は最初から無理があるとは言える。逆に日本の方があり得るだろう。
・また、留学生はカーストに組み込まれないという話もある。
・後はアメリカは広いので、まぁそういう所もあるだろうとは言える。日本だってド田舎村の住民が警察沙汰レベルの嫌がらせを日常的にしているなんてニュースが時々出てくるわけで。被害者がブチギレて刃傷沙汰になったことなかったっけか。
・一番考えられるのは、
階層自体は研究者が指摘したとおりに存在する、
+クリーク(派閥)内ではカースト上位のような生態系は見られることが多い、
+映画などを見た日本人が想像を膨らませた、
あたりだろうか。
実際の生徒の視点だと確かにカーストなんてものはない、という声は多い。その分派閥というか、似たような立ち位置同士で集まることは多いらしい。人種や、家が金持ってるかどうか、あるいは部活動だとか。
単純に昼飯食うときに集まるグループでも想像したほうが早いかもしれないが。
この集まりはクリーク(clique 排他的な徒党/派閥)と呼ばれる。
こう言うグループってのは大抵「中心人物」がいる。これはキング(ジョック)とかクイーンに該当するだろう。で、その中心により近い(サイドキックス等)か、それとも遠いか(スラッカーやメッセンジャーなど)、というのは外から観察すればカーストに見えると言えば見える。
この場合、最上位と最下位辺りは上下の自覚があるが、それ以外には上下の自覚は薄いらしい。留学生の証言は階層中位の辺りからかもしれない。
まぁ人間は「裸の猿」と言われることも有るので、動物を見る研究者的な目で見れば自然な仲良しグループに対しても順位付けを見出そうと思えば見いだせるだろう。それが無粋か妥当かは知らんが。
・なので暫定で「もっと小規模でもっと分かりづらい形でならあるかもしんない」くらいなら言える。無理してスクールカーストに当てはめる必要も無い気がするが。
メモ
・マイクロソフトのビル・ゲイツは「ギークやナードには優しくしておきなさい」と言っているそうだ。社会に出たら彼らが上になってるからというのが理由。
・1999年のコロンバイン高校銃乱射事件はカースト下位がカースト上位に対しての殺害を目的としたものだった、といわれている。ジョックたちがかなり陰湿且つ集団的なイジメを、隠れもせずにしていたらしい。
犯人のエリック・ハリスとディラン・クレボルドは「ジョック」をターゲットにしていたと明確にされている。
この学校はスポーツの強豪であり選手たちの立ち位置も高い。ジョックらは自警団気取りで群れ、自らを「トレンチコート・マフィア」と呼び、まぁ端的に言ってオラついていたらしい。
職員休憩室に隠れていたスタッフと学生は彼らが
「白い帽子か野球帽をかぶっている奴は全員立て!」
「ジョックは全員立て! 俺たちは白い帽子の奴を捕まえる!」
などと言うのを聞いていた(コロンバイン高では運動部員は白い帽子をかぶるのが伝統)。
二人はトッドに『お前はジョックか?』と聞いた。トッドは『ノー』と答えた(トッドはフットボール選手だったが嘘をついた)。
後、ハリスとクレボルドは自殺。
・本来カースト上位は下位とは接触することはあまりないと言われている。上位は下位を見えていないかのように振る舞うほうが多いとされる。ここからも、カーストと言うよりはクリークとして見たほうが良いのではないかと考えられる。
・見ればわかるが上位は「生態系=集団」になっている。下位は個人主義が多い。端的に言えば上位は群れている。下位は群れていない事が多い。
上位がいじめやすく(あるいはそのようなキャラと見られ)、下位がいじめられやすいことの一端でもあるだろう。学校とかは「生徒同士の喧嘩」などと一対一の争いと見がちだが、実際には同調圧力なども込みにして基本、被害者側の心境としては集団いじめに近いかもしれない。
で、そうなると「全体」に恨みを感じても不思議ではなくなってくる。
・とても面白いのが、上位も下位も個人のパーソナリティは全く問われていないということだ。クズだろうが上位、人格者だろうが下位。そういうことはある。まぁ人格者で上位、クズで下位もあるだろうが。
裏を返せば「人の質」は社会で生きる上であんまり役に立ってないことが多い。
・冗談抜きでB級モンスターもの映画の場合、カースト上位はだいたい死ぬ。逆にカースト下位が生き残る、というかそもそも主役であることが多い。
B級ホラーに限らず、バック・トゥ・ザ・フューチャー、スパイダーマン、トランスフォーマーなど主役がナードである映画は珍しくない。
BTTFの主人公は音楽もやってるんだが、ジョックに絡まれる日常であるためナードの側面はあるといえるだろう。まぁそのジョックはシリーズ1~3まで通して毎回肥やしに頭突っ込んでるので、ジョックの扱いもまたお察し。
(ちなみにその役を演じたトーマス・F・ウィルソンはいじめられっ子だったそうで、演技とは言えいじめる側を演じることに心が傷んだのだとか。後にアカデミー賞助演男優賞を受賞)
これはアメリカ人がサクセスストーリーが大好きなためだとされる(ナードの成長)。
また、映画監督にナード出身者が多い(シンガーソングライターも同じく)らしいので単純にジョックが嫌われているとも取れる。
加えてこういった「ジョックが痛い目にあう」シナリオがウケが良いこと自体が、カースト下位が多く、上位が嫌われていることの証左とされることがある。
・カースト下位の「キャラクター」あるいは「趣味」は、カースト上位を必要としていない。カースト上位が必要になるのはプリーザーやワナビーなどの、言ってしまえば「金魚のフン」からだ。
本当にカーストを語るならクリーク単位として、現在カースト下位としている個人主義者達は取り除くべきだとも思う。ジョックからメッセンジャー/スラッカーまでで、実際綺麗に収まるだろう。
・カーストを決める要素は色々あるのだが、その中でも最も重要なのがコミュニケーション能力だとされている(同時にコミュニケーション能力が過大評価されているとも)。
・興味深い意見があったので引用。
この手のヒエラルキーはたいていピラミッドで表されるけど
実際はピラミッド型じゃなくてダイアモンド型だと思うんだよね。https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88
要するに上と下は少なくて、真ん中辺りがいっぱいいるってことだろう。
私もそう思う。「気質」として下位のタイプ、要は個人主義の上で、馬鹿に目をつけられたくないのなら、安全の獲得のため意識的に上位に取り入る「動機」が生まれる。
これらは一番上は目指さない(或いは成れない)ため中間で止まるだろう。サイドキックス、ワナビー、メッセンジャー、スラッカーなどが該当するか。
これに関連して面白いデータが有った。カーストはともかく「階層」自体は存在すると指摘されているが、それは上中下+いじられの4段階に分かれる。その内訳が、
本田は、2009年〜2010年に神奈川県の公立中学校の生徒2874名に対してアンケート調査を行った。そのデータを元に分析すると、「高位・中位・低位・いじられ[注 14]」の比率が「10:60:25:5」になったという[61]。
もちろんこれは自己申告の立ち位置だが、大体中位が多いとは言えるだろう。
加えて低位やいじられが中位を名乗るケースはいくらかあると思われる。いじめられててもいじめられていないと言いはる被害者は居るし、自分がいじられていることを頑なに認めない者も居る。