・特定の対象に継続して注意を向ける能力。時間の経過とともに低下する。
捉え方に依っては「脳のスタミナ」とも考えられるだろう。
・「集中力」の違う見方かもしれない。特に集中が「切れてきた」という息切れ的な意味では。
・ビジランス(vigilance)とも。
持続的注意の馴化モデル
・継続的注意に於いても、分割的注意の時のような「限られた意識リソース(注意資源)」があり、それが減るから注意力も低下する、との説が今まではあった。
これに対して別の仮説ができた。
・認知システムの馴化(じゅんか)、つまり「慣れてあまり反応しなくなる」ことによって持続的注意の低下が引き起こされるという仮説。
馴化自体は簡単な話で、例えばポテトチップスの最初の一枚は美味いが、最後の一枚は惰性で食ってるだろと、そういうこと。順化は殆どの生物で確認されており、アメフラシにすらあるという。
・少なくとも刺激が弱い場合と、頻度が低い場合には継続的注意は低下することは事実らしい。
簡単に言えば慣れ・飽き(長期的ではなく短期的なものだと思われる。またポテチ食いたくなることもあるだろう)によって集中が切れてくる。タスクへの注意が下がるから、雑念や雑音などのノイズへの関心が相対的に増す。
・これを防ぐための「脱馴化」についての研究がある。順化モデルから考えて、「順化しなければ継続的注意は維持できるのではないか」という試み。
まず被験者は3つのグループに分けられた。
・グループA
2秒おきに画面に表示される「線」のうち、短い方だけを探す(ビジランス課題)のみ。表示時間は153msなので一瞬。これは他のグループと共通。
・グループB
ビジランス課題の前に4つの数字を記憶し、ビジランス課題の後で再認テストが行われる。
・グループC
同様に数字を記憶し、最後に再認を行う。さらにビジランス課題の最中にも再認テストを行う。
一見すると、グループCが一番作業量が多い。
結果は、グループCにのみビジランスの低下が「起きなかった」。
・これは非常に面白い。「別のことを挟んだら継続的注意力が維持された」ということになる。
加えて逆説的であり、皮肉なことだが、「長時間、連続で1つのことに集中しようとする」と速攻で集中できなくなる可能性の示唆とも言えるだろう。他に刺激がない=順化が最速で起きる。
・続いての研究で、「別の課題」の頻度がどれくらいあれば、脱馴化が起きるのか調べられた。
結果、メインと比べて別の課題の頻度が低い方が有効だと判明した。そりゃそうだろうという気しかしない。まぁ確認は大事。
これらのことにより「ビジランスの低下は回避可能である」と著者は結論づけている。
・考えてみれば、集中力/注意力が枯れ果てた状態とは、疲れ果てて眠りたいなどではなく、「飽きたし退屈だから別の(特に自由な)ことやりたい」という状態に近い。酷い時には「今やっているこれじゃなければ何でもいい」とかだったりもする。
これは活力的には残っているとも取れる。枯れたのは注意力だけで。そして注意力が枯れる(と感じられる)のは、慣れて刺激がないからだと。
・「緊張感を持って行う」というのは、正しいことになる。程度によるが。
香りと持続性注意
・香りと持続的注意の関連を調べた論文によれば、香りの有無では香りがあったほうが持続的注意は伸びた。
また、ラベンダーとユーカリの比較では、ラベンダーにのみ効果があった。これはラベンダーの香りが過度の覚醒を抑えたからだと考えられている。
スタミナで例えるなら、全力疾走して速攻でバテそうな奴を「落ち着かせる」ことによって、走行距離を伸ばしたわけだ。
・主観的な、つまり個人の好みや直感による「好きな香り」と「スッキリする香り」を7種類から選ばせてメンタルワーク(思考や判断などが必要な作業)を行わせた実験では、「スッキリする香り」には効果があった。難易度が低い場合にはミスが減り、高い場合には正解率が向上した。
ただし殆どがグレープフルーツかペパーミントの香りを選んでいるため、主観だから効果があるのか物質的に効果があるのかなんとも言えない。また、「好きな香り」の方は効果がなかったらしい。
著者自らが述べているが、プラシーボ効果との区別の必要を今後の課題としている。しかし個人が使う分にはプラシーボで全く構わないわけで。なんぞそれっぽい香りを自分で探してみるのもいいだろう。
参照
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tvrsj/15/4/15_KJ00007408746/_pdf/-char/ja