- 日記に期待することに、自己肯定感の向上や精神安定、メンタルヘルスの改善がある。
- それらが期待できる効果的な書き方には何があるか。
・前回に続いて書くこととストレス解消などのメンタルヘルスについて。
・「日記の効果」としてもストレス解消や自己肯定感の上昇、メンタルヘルスに良いなどとは言われている。大雑把に「人生が変わる」とも。
日記の書き方で、「嫌なことを書いてはいけない」とする人もいるのだが、これは少々疑っている。前回の通り、感情的に辛いことを書いた人間の方が、その後の改善に目覚ましいものがあったのだから。
・そんなわけで日記に何を書いたら良いのか。目的によって違うだろうが、今回はメンタルヘルスに効果的な書き方。
論文 『振り返り日記が精神的健康に及ぼす効果の検討』
・つまり振り返り日記は精神的健康にいいんですよ(ネタバレ)。
・24名に、30日間、振り返り日記をスマホで書いてもらった。
『日本女子体育大学研究倫理委員会の審査を受け承認された後に実験・調査を行った。』とあるため、全員女性かもしれない。
日記の前、書き終わった直後、さらに一ヶ月後にそれぞれ調査をし、メンタルの状態などを調べている。
・ストレス反応、うつ傾向、社会的活動障害などが書く前よりも有意に低下(良くなった)。
・「本来感」と「本来的自己感」が書く前よりも向上した。
振り返り日記とは
・概要としては、その日あったことを振り返った日記。そのままだね。
これを素材として「何を書くのが精神的健康に効果的か」を調べている。
・この論文ではさらに3グループに分けている。
- 出来事を書く
- 一日を振り返り、「気がかり」に感じられた出来事を自由に書く。失敗したこと、心配なことなど。小さなことで構わない。
- 一日を振り返り、「良いこと」と感じた物を書く。嬉しいこと、褒められたこと、美味しいものを食べたなど。小さなことで構わない。
後述するが、この「小さなことで構わない」ってのも重要な点だ。むしろ小さな事を書くことが重要だと思う。
- 感情を書く
- 「出来事のみ」と基本は同じ。
- 追加で、その内容と関連した自分の感情や考えも書いてもらう。
- 「感じ」を書く
- 「感情を書く」と基本は同じ。さらに以下を追加。
- その出来事全体を今、どのように感じているか?
- 身体の真ん中をなんとなく感じながら、「その感じ」を短く書いてもらう。
- 表現しにくいので、「もやもやする」「ザラザラしている」とか、「深いブルーな感じ」など色で表現しても良い。
- 「感情を書く」と基本は同じ。さらに以下を追加。
いきなり毛色が違うというか、えらく抽象的に感じられると思われる。これはフェルトセンスと言って、カウンセリングで使われるものだ(論文でのグループ名は『フェルトセンス筆記群』)。
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筆がノッたらしい
・研究としては本来、この3グループで比較したかった。
だがみんな指示通りに書いてくれなかったので結果は統一することになった。
例えば出来事だけを書くグループが、感情まで書いてしまっていたなど。筆が乗ってきちゃったっぽい。
まぁ実験として見れば残念なことだが、個人でやる分にはむしろ良いことだろう。本来の想定では出来事よりも感情、感情よりもフェルトセンスが良い効果を発揮することを予測されていただろうし。
・ちょっと面白いので、どんな指示破りだったのかを書いておく。
- 「出来事」は感情も書いたものが混在していた。
- 「感情」はフェルトセンスも書いたものが混在していた。
- 「フェルトセンス」は出来事と感情までしか書かれていないものが混在していた。
大体は「詳しく書きすぎた」。やっぱちょっとノッてきちゃったっぽい。
(肯定的に考えれば、人は自分の内面を探索したい欲求か好奇心があるのかもしれない)
全体的に見れば、「出来事(感情まで書いちゃった)」が予定より少なくなってしまい、「感情」が増えてしまった。フェルトセンスは感情組が書いたり書かなかったりしてるのでトントンだろうか。
逆を言えば「日記に感情を書いたら効果的かどうか」としては使える。
フェルトセンス
・フェルトセンス筆記群のみ、指示されたフェルトセンスが書かれていないケースが有った。
フェルトセンスは言語化が難しい。これは感情にも感覚にも属するんだが、「体の中心にぼんやりと注意を向け、何かの気がかりにまつわる身体感覚」を指す。もっとわかりやすく「何か意味を含んだ体の感じ」とも言われる。
元からはっきりしない、かなり存在感が弱いものなので、「指示がよく分かんなかった」のかもしれない。
・フェルトセンスの発見は、カウンセリングを受ける人が自発的に喋る際に「ええと」とか「いや……」とかの「言いよどむ」人々が居て、そういう人の方が回復したことに由来する。内面の探索をし、それを表現しようとしていた人たち。
逆に簡単に言葉にできるような感情しか言わない人が、いつまでもよくならなかった。
つまり当人が「はっきりしない感じ」を「なんとか表現しようとする」のであり、「日記書いて」ってお願いでそこまでのモチベを自発的に持つかなぁとも思う。
実験の結果
・全体的に良くなっている。そして大体は一ヶ月後の方が更に良くなっている。
日記終了後にアンケートを取り、「このまま続けたい」と答えた数が多かったためとも考えられる。つまり自主的に続けているから。
・あるいは、日記を書くことで「何か」が変わり、それが世界の捉え方に影響したか。今回は特に自分の思考や感情を取り扱うことをやったため、それも考えられるだろう。
認知的再評価といって、自分の感じ方、考え方を客観的に見て、再評価する。これも日記の研究で効果があるとされている。
この場合、比較的短い期間でも有効だと考えられる。ペネベイカーの複数の実験でも、3日や5日やったくらいで効果が出ている。数カ月後も同じく良好だった。
・今回の実験の具体的な結果だが、
- 心理的ストレス反応の低下
- 怒り、疲労、循環器不調、抑うつが優位に低下(良くなった)。
- 過敏と対人場面での緊張感は、大きな違いは見られなかった。
- ただし日記を書いている間はこれらも少し低下している。
- うつ症傾向、社会的活動障害の有意な低下(良くなった)。
- 本来感の向上(今の自分にちゃんと自分らしさを感じるとかそんな感じ)
- 「本来的自己感」が向上した。
- 「自己疎外感」と「他者影響感」は影響が見られないとされている。
要するに心理面と対人面や社会面において良くなり、なおかつ自分らしさも感じられるようになった。
・本来感には「自己受容」の要素がある。自分を許すとか受け入れるとか。このため自分の考えや感じたことを書くこと(=表現すること)は、それに該当したのかもしれない。
書き手への配慮
・前回紹介したペネベイカーの実験では、感情的に大きな影響を受けた出来事を書くグループが心身の健康の向上が見られた。
ただし内容がキツく、中には自分の不注意で家族を死なせてしまったことを書く人もいた。
・この論文では倫理的観点と書き手の抵抗感なども配慮して、内容は弱い肯定や否定程度に留めている。
・個人がやる際にもこれはいい情報だろう。苦行や試練のようなイメージではなく、自分の心におっかなびっくり触れば良い。
被験者は日記を書くことに何を感じていたか
・実験終了後に、自由記述でアンケートを取っている。これも分析されている。
・被験者が振り返り日記を書くことの効果として、
- 気持ちがスッキリし、整理された
- 自分への新たな気付きや理解が得られた
- 前向きな感情や考えが生じる
- 自分自身の変化が見られる
- 反省できること
などが実感としてある。
・振り返ることについてはポジティブな捉え方が多い。価値を感じられたとされる。自分と向き合う、読み返した時の気付きなど。
・日記を書くことそのものについて、簡単と難しいの両方の感想があった。難しいと答えたのがフェルトセンス筆記群かどうかは不明。
ただ、「内面の探索」の能力は個人差はあるだろう。簡単な例としては内向型はこのセンスは一般的に高いが、外向型は苦手とする。まぁ技能なんでやってりゃ伸びんだろ。
メモ
・書いたものが「残る」または「残す」ことを意識して遠慮してしまうよりは、書いたものはすぐ捨てるつもりの方が自分と向き合いやすいだろう。
・「うまくいかないこと」の原因が、自分の内部にある場合。焦燥や本来の性格から「外部」に働きかけることで解決しようとするのなら、悪い螺旋を転がることになる。
・心療内科や精神科でも「日記療法」はある。セラピストとの交換日記みたいな感じ。
これは自閉スペクトラムの対人スキル向上を意図して行われるという。自分が同じ失敗を繰り返している、いつも同じ(良くない)行動を取ってしまうなどの自覚につながると。