・うつ病の脳は、どういう状態なのか。実はまだはっきりと分かっておらず、いくつか仮説があるだけだったりする。
そのうちの一つ、ノルアドレナリン仮説。
モノアミン仮説
・「モノアミン」とは総称。ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなどの神経伝達物質たち。
「モノアミン仮説」とは、これら脳内物質がうつ病に関わっているのではないか、という説。
その中でもノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンが特に関わっているのではないか、との説が更にある。
ノルアドレナリン仮説
・1956年、スイスで「イミプラミン」なる物質が抗うつ作用を持つことが発見され、後に抗うつ薬として発売されるようになった。
ただ、この段階では「なぜ抗うつ作用があるのか」はわからなかった。
・後にイミプラミンはノルアドレナリンの再取り込みを強力に阻害する作用を持つことがわかった。
このことからノルアドレナリンとうつ病に関係があるのでは、とされた仮説がノルアドレナリン仮説。
ノルアドレナリン
・ノルアドレナリンはストレスホルモンの一つであり、身体を「闘争か逃走か」の状態、要は緊急事態のような状態にさせる。
交感神経を活発にさせる。敗血症に依るショック、大量出血に依るショック、アナフィラキシー性のショックなどに対して使用されたりもする。
それっぽいと言えばそれっぽい。
再取り込み
・再取り込みとはそのままの意味で、受容体に受け取られず、余った神経伝達物質を回収すること。リサイクリング。
・正直な所、私にはここがわからない。再取り込みを阻害する=回収されていないものが増えるということで、これでは「ノルアドレナリンの濃度を上げる」ことになる。
実際に抗うつ薬はセロトニンの「再取り込みを阻害する」ことによってセロトニンの濃度を上げ、これにより効果を発揮するものがある(SSRI)。
だがノルアドレナリンはどちらかと言うと鬱病の症状の原因に見える。不眠だとかが特に顕著だろう。
ネガティブなイメージにしたってノルアドレナリンによる緊張や危機意識と捉えても通じる話だ。
だが再取り込みを阻害することにより改善するのは「ノルアドレナリンが必要」であることを示す。
・ノルアドレナリンには恐らく他にも役割がある。ちょっと見つからないが。
神経伝達物質はいくつか役割を掛け持ちしている事が多い。
例えばセロトニンは脳内では幸せホルモンだが、身体には整腸作用として働くし(多いと下痢になるし少ないと便秘になる)、体温調節にも関わりがある。
インスリンは血糖値を下げるものとして知られているが、睡眠中に頭の中のゴミ(βアミロイド)を掃除する役割がある。
また、ホルモンには「副作用」もある。作用を期待するならそれ以外は副作用だ。オキシトシンは「抱擁ホルモン」だとか呼ばれて幸せホルモン扱いされてるが、嫉妬の感情が強くなる、騙されやすくなる、と碌でもない効果もある。
今回の場合を肯定的に解釈すれば、広く知られる「戦うか逃げるか反応を引き起こす作用」ではなく、このような「別の役割」としてノルアドレナリンが不足し、機能していないために濃度を上げる必要があるということだろうか。
つーか研究者とかがツイッターとかでサラッと説明してくれませんかね。
・SNRIと呼ばれる薬がセロトニンとノルアドレナリンの阻害薬として存在する。
このため、前述の通りノルアドレナリンを増やして「別の役割」を果たしてもらうことが重要なのだろう。
・実際の所は、ノルアドレナリンの濃度はうつ病患者と健常者で違いがあるという報告も、無いという報告もあるようではっきりしていない。
ただ「濃度」はともかくとしてうつ病の脳は、ノルアドレナリンのトランスポーター(輸送体)の密度が高いのは事実のようだ。密度が高ければ高いほど物事の判断をする時の注意・覚醒状態が高まる。簡単に言えば緊張状態。
・ADHDの薬である「ストラテラ」も選択的ノルアドレナリン再取込阻害薬となっている。「選択的」なのは、他にあまり影響を与えないことからそう言われているだけ。
ストラテラの副作用の中に「敵意の出現あるいは悪化、攻撃的、怒りっぽくなる」というのがある。
こちらのほうがノルアドレナリンらしさがあるな。露骨に「闘争/逃走」状態だろうこれは。
素でこんなんなのもいるが、何か関係あるのかね。
モノアミン仮説では説明できない現象
・抗うつ薬の投与で脳内物質の状態は数時間で改善する。
しかし、うつ病の症状の改善は4~8週間ほどかかる。
神経伝達物質がうつ病の直接の原因の場合、その改善とともに症状が改善されなければおかしい。
この点が「モノアミン仮説の矛盾」とされている。
このため、うつ病患者の脳の状態は、より深刻な症状なのではないかと考えられている。